有機野菜などの宅配事業を展開

有機野菜や特別栽培野菜などの食品の宅配事業を展開するオイシックス・ラ・大地(東京都品川区、髙島宏平代表取締役社長)。「Oisix 」「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」の主要3ブランドは、新型コロナウイルスによる巣ごもり需要を確実に取り込み、会員数や売上を大幅に伸ばしてきた。現在の従業員数は約2000人。その同社の成長を支えるのがリスクマネジメント活動である。

オイシックス・ラ・大地
東京都

※本記事は月刊BCPリーダーズvol.37(2023年4月号)に掲載したものです。

事例のPoint

❶毎月リスク管理委員会を開催

・インシデントの報告や実施すべき対応の議論、再発防止対策の進捗状況の確認などを1時間ほどかけて行い、部門間での情報共有を図る。
 

❷問題の早期発見でトラブルの拡大を防ぐ

・リスク管理委員会での報告に加え、内部通報制度の充実により、問題を早期に発見。各部署で起こっているトラブルを速やかにピックアップして、必要に応じて高いレイヤーで対応している。
 

❸迅速な意思決定で成長を加速

・マスク着用については、物流センターでは着用を継続しながらも、本社内では着用の判断を個人に委ねるという独自ルールをいち早く実行。リモートワークについても「発想を必要とするミーティングや新メンバーや新しいチームが加わる際にはリモート会議ではなく対面の会議とする」ことを決め、事業活動を妨げない形でリスク管理を心がけている。

同社でリスク管理委員会が設立されたのは2012年。2017年に「大地を守る会」、2018年に「らでぃっしゅぼーや」と経営統合するのに伴い、委員会の活動も拡大してきた。委員長を務めるのは、オイシックスの創業メンバーであり、現執行役員の山下寛人氏だ。

執行役員の山下寛人氏。背景にある壁画は、本社に飾られている全国の契約農家の産地の土を使って書いたアート作品

山下氏は「当社にとっての最大のリスクは顧客からの信頼を損ねること。インターネットからの注文がメインなので、お客様はネットとの親和性が高い。もし食品の安全性が損なわれるとネットでは一気に情報が拡散するので、商品の品質は最も注視すべきリスク。受注システムのダウンや配送のトラブルもやはり信頼の喪失につながります」とリスクマネジメントの重要性を強調する。

毎月開催しているリスク管理委員会の構成員は、経営企画本部やシステム本部、ロジスティクス部、法務部門、広報部門などの部長ら。同委員会専任の事務局員2名を含めた15名が参加する。

ヒヤリ・ハットの報告や実施すべき対応の議論、再発防止対策の進捗状況の確認などを1時間ほどかけて行い、部門間での情報共有を図る。ここでの結果は、3カ月ごとに社長と12名の執行役員が参加する執行役員会に報告している。

問題の早期発見でトラブルの拡大を防ぐ

同社では、組織内のコンプライアンス違反や不祥事などを通報する内部通報制度を設けている。「企業倫理ホットライン」と呼ばれる内部通報制度の連絡は社内と社外の2つ。社内窓口はリスク管理委員長と人事部門長、経営企画本部長が担い、社外窓口は弁護士が担当している。ハラスメントは人事部門が受け付ける。

山下氏はリスク管理委員会の役割を「各部署で起こっているトラブルを速やかにピックアップして、必要に応じて高いレイヤーで対応する。場合によっては対策本部の設置も含まれます」と説明する。問題を早期に発見して、迅速に対応にあたることで、大きなトラブルに発展することを防ぐのも同委員会の役目だ。

リスク管理委員会の成果

リスク管理委員会の運営により特に成果が挙がっているのが物流センター内の労働災害や自社トラックによる配送途中の交通事故の減少だという。

宅配事業を展開する同社では、発生頻度の多いリスク。ほかのインシデントについても「リスクが顕在化した際に各部門で個別に対処すると経験がその部門内だけにとどまるが、リスク管理委員会のおかげで成果が出た対策のスキームが他部門の対策に生かせる」と山下氏は委員会活動のメリットを確実に感じている。

「新型コロナウイルス対策は、上手くいった例です。2020年1月末という早い段階で対策本部を立ち上げ、対応を進めていきました」と振り返る。食のインフラを担う企業として、全国の物流ステーションで衛生管理レベルをいち早く引き上げ、徹底した感染対策のもとで物流配送網を確立。事業拠点のある中国での情報収集が奏功した。

同年2月26日以降は、コロナ対策会議を毎日のように開催し、変化に対応しながら迅速な意思決定を実施。経営層は週に1回以上のビデオメッセージを発信し、経営方針を綿密に伝え、不安の払拭に努めた。

また、外出自粛要請を見越して早急に在宅勤務のインフラを整備。コールセンター含め本社スタッフの約8割以上がリモートワークで通常業務を遂行できたという。配送を担っている物流センターのスタッフや配送クルーには、特別手当を支給した。オミクロン株の流行時は保育園や学校の休校が相次ぎ、結果的に社員の欠勤が増えたため、欠勤による事業継続リスクの洗い出しとその対策も強化した。