2024/02/03
令和6年能登半島地震
自律的に動ける人間でなければ会社のBCPも機能しない
個人ではなく、企業として活動が展開できなかったのか?
こんな質問に対し、岩城氏は「本当は、今僕がやっていることは、ほとんどは行政がやることなんですよね。ところが、行政はすぐに動けないですし、根拠となる法律がないと行動がとれない。意思決定と情報伝達が遅いというのは大企業も同じです。だから、今行っている活動も、会社としてではなく、私個人としての活動です。会社のお金もまったく使っていません」と答える。
会社の仕事を休んだのは9日から14日までの5日間だけ。あとは経営をしながら、支援活動を続ける。金沢市片町に、代替となる事務所を借り、社内外の打ち合わせはほぼテレワークで行っている。
経営者としての悩みもある。「私が個人としての活動として行っていると言うと、ほかの社員もみんな真似をするんですね。彼らも珠洲市の住民ですから、自分の責任で被災地に行って活動をすると。経営者なら危険な場所に社員は行かせられません。でも個人での活動で、自分で責任を取ってまで行きたいという社員を止められるか――」。ただ、こうした社員が本当に会社を守ってくれる人間とも言う。
「立派なBCPがあったとしても、実際に動くのは人間です。その時、自分の判断で自律的に動ける人間がいなければ、BCPは機能しないのではないでしょうか」

矢継ぎ早の支援活動
1月6日からは二次避難希望者を直接受け入れる活動を開始。活動資金を確保するため「能登半島地震避難者受入基金」も設立した。大家族ではホテルに入れないとの問題を聞くと、今度は北陸3県での空き家を募集し始めた。「プライバシーが確保でき、家具・寝具があり、電気・ガス・水道・風呂・トイレが使えること。1月末まで無償で貸し出せることが条件です」。明確な要件を書き込むと、SNSを通じて、徐々に空き家情報が入り始める。これらすべてが1日の岩城氏の動きだ。
その後も、二次避難した人が手持ちのお金がなくても借りられる仕組みをつくったり、仲間とともに二次避難者の仕事を斡旋できるサイトを立ち上げたり、二次避難希望者とホテルや空き家所有者のマッチングサイトを立ち上げるなど、時宜を得た活動を次々に展開した。
1月13日からは被災地と金沢市を結ぶ定期運行バスを走らせた。被災地から人を運びだすだけでなく、一度避難した人でもこの定期便を使うことで自宅などに戻ることができる。「夫婦で避難ができず、奥様だけが二次避難先に移られて、旦那さんは被災地に残って仕事を続けていたというご夫婦がいらっしゃったのですが、旦那様が災害関連死で亡くなってしまい、奥様が旦那様のもとにかけつけたくても手段がないというので僕が車で乗せていきました。その時、定期便が必要だと思ったのです」。
1月27日からは、首都圏の公営住宅に入居する被災者のために、能登-羽田間の飛行機代を支給。28日には、避難所に避難している被災者を二次避難させるコーディネーターを有償で募集(被災者が対象で活動資金を支払っている)。さらに現在では、能登の未来を考えるため、「能登乃國百年之計」プロジェクトとして、語り部500人と、聞き手を募集している。
■岩城氏の主な支援活動(FBへの書き込みをもとに作成)
1月1日 | 寄付など支援呼びかけ |
1月2日 | 集落孤立情報などの収集開始 |
1月4日 | 避難者受け入れ宿泊施設確保 |
避難者受け入れ宿泊施設一覧サイト作成 | |
珠洲市の5万人を一度外に出すため、当面の目標として1月31日までに500人が避難できるホテルを確保することを掲げる | |
次のステップとして2月1日以降に被災者が住める住宅を金沢市はじめ全国で提供できるようにすることを掲げる | |
1月6日 | 能登半島地震避難者受入基金設立 |
1月6日 | 個人で確保した二次避難先へ被災者受け入れ開始 |
1月6日 | 北陸3県で被災者が住める空き家募集 |
1月7日 | 二次避難者が、手持ち資金など持ち合わせがなくてもお金が借りられる仕組みを構築 |
1月8日 | 東京で、避難者の後方支援活動部隊を立ち上げ |
1月8日 | 二次避難用の家を探している人と、無料で家を提供してくれるマッチングサイトを立ち上げ |
1月9日 | 避難者の相談に応じられるコールセンター先を確保 |
1月9日 | 被災地から金沢までの定期運行バスを開始 ※1月13日運行開始 |
1月12日 | クラウドファンディング開始 |
1月13日 | アステナグループ会社のイシカワズカンに依頼し、二次避難先でのアルバイト情報提供開始 |
1月13日 | 復興・革新を新たなテーマに打ち出し、①能登をつなぎなおすためのコミュニティづくり、②能登の国100年之計をつくることを目標に掲げる |
1月17日 | インスタライブで著名人らによる能登テーマにしたトークセッションを開始※1月19日から定期的に放送 |
1月18日 | 洗濯入浴バスを計画していたが計画中止を発表 |
1月27日 | 二次避難する人の能登―羽田間の航空チケットを全額寄付することを発表 |
1月28日 | 二次避難コーディネーターを募集 |
1月28日 | マンガによる二次避難のすすめを作成 |
1月29日 | 能登の未来を語る人、取材する人を募集 |
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/17
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方