自律的に動ける人間でなければ会社のBCPも機能しない

個人ではなく、企業として活動が展開できなかったのか? 
こんな質問に対し、岩城氏は「本当は、今僕がやっていることは、ほとんどは行政がやることなんですよね。ところが、行政はすぐに動けないですし、根拠となる法律がないと行動がとれない。意思決定と情報伝達が遅いというのは大企業も同じです。だから、今行っている活動も、会社としてではなく、私個人としての活動です。会社のお金もまったく使っていません」と答える。

会社の仕事を休んだのは9日から14日までの5日間だけ。あとは経営をしながら、支援活動を続ける。金沢市片町に、代替となる事務所を借り、社内外の打ち合わせはほぼテレワークで行っている。

経営者としての悩みもある。「私が個人としての活動として行っていると言うと、ほかの社員もみんな真似をするんですね。彼らも珠洲市の住民ですから、自分の責任で被災地に行って活動をすると。経営者なら危険な場所に社員は行かせられません。でも個人での活動で、自分で責任を取ってまで行きたいという社員を止められるか――」。ただ、こうした社員が本当に会社を守ってくれる人間とも言う。

「立派なBCPがあったとしても、実際に動くのは人間です。その時、自分の判断で自律的に動ける人間がいなければ、BCPは機能しないのではないでしょうか」

金沢市内に設けた代替事務所

矢継ぎ早の支援活動

1月6日からは二次避難希望者を直接受け入れる活動を開始。活動資金を確保するため「能登半島地震避難者受入基金」も設立した。大家族ではホテルに入れないとの問題を聞くと、今度は北陸3県での空き家を募集し始めた。「プライバシーが確保でき、家具・寝具があり、電気・ガス・水道・風呂・トイレが使えること。1月末まで無償で貸し出せることが条件です」。明確な要件を書き込むと、SNSを通じて、徐々に空き家情報が入り始める。これらすべてが1日の岩城氏の動きだ。

その後も、二次避難した人が手持ちのお金がなくても借りられる仕組みをつくったり、仲間とともに二次避難者の仕事を斡旋できるサイトを立ち上げたり、二次避難希望者とホテルや空き家所有者のマッチングサイトを立ち上げるなど、時宜を得た活動を次々に展開した。

1月13日からは被災地と金沢市を結ぶ定期運行バスを走らせた。被災地から人を運びだすだけでなく、一度避難した人でもこの定期便を使うことで自宅などに戻ることができる。「夫婦で避難ができず、奥様だけが二次避難先に移られて、旦那さんは被災地に残って仕事を続けていたというご夫婦がいらっしゃったのですが、旦那様が災害関連死で亡くなってしまい、奥様が旦那様のもとにかけつけたくても手段がないというので僕が車で乗せていきました。その時、定期便が必要だと思ったのです」。

1月27日からは、首都圏の公営住宅に入居する被災者のために、能登-羽田間の飛行機代を支給。28日には、避難所に避難している被災者を二次避難させるコーディネーターを有償で募集(被災者が対象で活動資金を支払っている)。さらに現在では、能登の未来を考えるため、「能登乃國百年之計」プロジェクトとして、語り部500人と、聞き手を募集している。

岩城氏の主な支援活動(FBへの書き込みをもとに作成)

1月1日 寄付など支援呼びかけ
1月2日 集落孤立情報などの収集開始
1月4日 避難者受け入れ宿泊施設確保
  避難者受け入れ宿泊施設一覧サイト作成
  珠洲市の5万人を一度外に出すため、当面の目標として1月31日までに500人が避難できるホテルを確保することを掲げる
  次のステップとして2月1日以降に被災者が住める住宅を金沢市はじめ全国で提供できるようにすることを掲げる
1月6日 能登半島地震避難者受入基金設立
1月6日 個人で確保した二次避難先へ被災者受け入れ開始
1月6日 北陸3県で被災者が住める空き家募集
1月7日 二次避難者が、手持ち資金など持ち合わせがなくてもお金が借りられる仕組みを構築
1月8日 東京で、避難者の後方支援活動部隊を立ち上げ
1月8日 二次避難用の家を探している人と、無料で家を提供してくれるマッチングサイトを立ち上げ
1月9日 避難者の相談に応じられるコールセンター先を確保
1月9日 被災地から金沢までの定期運行バスを開始 ※1月13日運行開始
1月12日 クラウドファンディング開始
1月13日 アステナグループ会社のイシカワズカンに依頼し、二次避難先でのアルバイト情報提供開始
1月13日 復興・革新を新たなテーマに打ち出し、①能登をつなぎなおすためのコミュニティづくり、②能登の国100年之計をつくることを目標に掲げる
1月17日 インスタライブで著名人らによる能登テーマにしたトークセッションを開始※1月19日から定期的に放送
1月18日 洗濯入浴バスを計画していたが計画中止を発表
1月27日 二次避難する人の能登―羽田間の航空チケットを全額寄付することを発表
1月28日 二次避難コーディネーターを募集
1月28日 マンガによる二次避難のすすめを作成
1月29日 能登の未来を語る人、取材する人を募集