日本安全保障・危機管理学会主任研究員
オオコシセキュリティコンサルタンツアドバイザー
和田 大樹

2020年夏にオリンピックが東京へ再びやって来ることが決定し、日本国内における盛り上がりも高まる中、2014年2月にロシア南部の保養地・ソチで冬季オリンピックが開催される。オリンピックといえば世界中から優秀なアスリートが集結し、金メダルを目指して競い合い、また世界中の注目が集まる一大スポーツイベントである。オリンピックの競技に国の代表として参加できることは、アスリートにとっての名誉であり、ホスト国にとっても自らの国の文化や伝統などを国際社会へアピールできる絶好のチャンスとなる。しかしオリンピックを開催するにあたっては、反グローバリズムを掲げる政治団体や少数民族の権利と保護を求める人権団体によるデモや抗議活動、さらには政治的独立や民族の自決を求める武装組織によるテロや犯罪など、多くの治安上の懸念に対処しなければならない。そしてオリンピックの歴史を振り返れば、このような治安上の懸念はいつも付きまとうものであった。ここでは2月に冬季五輪を迎えるソチを中心とするロシア南部に焦点を合わせ、オリンピック開催前後におけるこの地域のテロ情勢について論じるとしたい。

1.過去の世界的なイベントにおける治安上の動向
上述の通り、オリンピックに代表される国際的なイベントは世界中のマスメディアが注目することから、そこで大規模なテロ事件などが発生すれば、その分反響も大きくなる。何らかの政治的目標を掲げテロ事件を実行するテロリストにとって、国際的なイベントは自らの存在を国際社会に示し、強い心理的恐怖を拡散できる絶好の機会なのである。幸運にも2012年のロンドン五輪ではそうしたテロ事件は発生しなかったが、過去においてはミュンヘンやアトランタなどでテロ事件が発生し、北京時ではウイグル民族派の武装組織(東トルキスタンイスラム運動:ETIM)の動きが活発化している。また2010年6月~7月の南アフリカサッカーワールドカップや2010年12月のノーベル賞受賞式などにおいても、それを狙ったかのようなテロ事件が報告されている。下の年表はそれらについてまとめたものである。

過去の国際的なイベントにおけるテロ事件、武装組織の活動

・1972年ミュンヘン五輪
 9月5日、パレスチナ武装組織「黒い九月」が選手村へ侵入し、イスラエルのアスリート11名が殺害された。

・1996年アトランタ五輪
  7月27日、アトランタの五輪百周年記念公園で仕掛けられた爆弾が爆発し、1名死亡、100人以上が負傷した。白人至上主義の男を逮捕。

・2005年グレーンイーグルスサミット
 サミット開催中の7月7日、ロンドンの地下鉄の3か所で同時に爆発テロが発生し、56人死亡(ロンドン同時多発テロ)。パキスタン系英国人数名を逮捕。

・2008年北京五輪
 東トルキスタンイスラム運動の活動が活発化。中国雲南省昆明市で16人が死傷したバス連続爆破事件などが発生。

・2010年南アフリカワールドカップ
 7月11日スペインとオランダの決勝戦最中、ウガンダのカンパラでサッカーのパブリックビューイングを標的としたテロ事件が発生し、64人が死亡。ソマリアのイスラム過激派アルシャバブが犯行声明。

・2010年ノーベル賞授賞式
  12月11日、授賞式が開催されていた会場の近くで北欧初の自爆テロが発生し、犯人のみ1人死亡。犯人はイラク系スウェーデン人。

・2012年ロンドン五輪
  英国内でテロ事件は発生しなかった。しかしスペイン・ジブラルタルで五輪をパブリックビューイングしていた人々を狙ったテロ未遂事件が発覚。チェチェン人2人、トルコ人1人が逮捕。容疑者の3人はアルカイダとの関わりが指摘される。

・2014年ソチ五輪 ??