2024/05/22
令和6年能登半島地震
釜からこぼれた亜鉛で火災 BCPが初動の背中押す

1月1日の能登半島地震で、シーケー金属(富山県高岡市、釣谷宏行社長)の本社工場ではメッキ用の釜からこぼれた亜鉛が原因で火災が発生した。消防団の協力を得て鎮火させるとすぐに、事業再開に動き出す。復旧活動にはげむ従業員の背中を力強く押したのは、東日本大震災の被災経験をもとに策定したBCPの社員行動指針だった。
❶手を抜かない消火訓練
・消火栓まで使った訓練を繰り返し実施し、習熟度を高める。
❷グループ会社で予備品情報を共有
・各社で保有する予備品をリスト化。通常業務だけでなく災害時にも活用。
❸災害対応を後押しするBCPの社員行動指針
・具体的でメッセージ性の高い指針を示すことで、従業員が活躍。
工場から出火

1月1日に起きた能登半島地震で、シーケー金属では釜からこぼれたメッキ用の亜鉛により、周辺にあった大型トラックや電気配線などから火災が発生した。駆けつけた従業員と高岡市の消防団による消火活動で鎮火。すぐに復旧に向けて動き出し、9日には再稼働を果たした。
取締役でめっき事業本部長を務める加藤裕之氏は「復旧のよりどころとなったのが BCP規定に記載している社員行動指針。おかげで、次の対応まで考えて、具体的に素早く動き出せた」と振り返る。
地震発生当時、同社は年末年始の休暇中で工場も休業していた。岐阜県に帰省していた加藤氏のスマートフォンが緊急地震速報でけたたましく鳴ったのは 16 時過ぎだった。正月の酔いから起こされたという。
そしてテレビを眺めていると、16時10分ごろ、再度の緊急地震速報がテレビから発せられ、画面からは「今すぐ津波から逃げてください」とのアナウンスが流れた。能登地方は震度6強を表示していた。
加藤氏はすぐにスマートフォンから工場内に設置しているWebカメラで状況を確認。画面に映っていたのは立ち上る煙だった。そして、高岡市内にいる副工場長に電話し、急ぎ向かうように指示。
続いて、管理職に煙発生の電話報告をしていった。工場の煙を現場で最初に確認したのは、近所に住む、グループ会社であるサンエツ金属の役員だった。過去にシーケー金属の勤務経験があり、休業中の工場では出るはずもない煙が見えたために駆けつけていた。直後に副工場長も到着し、加藤氏へ火災発生を連絡。その後、2人で消火活動を開始した。
燃えていたのは大型トラックと電気設備など。地震の揺れで釜からこぼれたメッキ用の亜鉛に接触し、火災が発生していた。金属などの表面を薄く覆うメッキ用の亜鉛は、工場が休業中とはいえ、溶かした状態を維持しなくてはならない。
釜は約440℃で保温されていた。この亜鉛釜のサイズは幅2.1m、長さ12.5m、深さ2.8mで500トンほどの亜鉛が溶けていた。ふたで覆っていたが、あくまで保温用でこぼれを防げなかった。
消火活動では、当初使っていた消火器では不十分と判断し、消火栓に切り替えて対応。煙を見て、周辺に待機していた高岡市消防団の二上(ふたがみ)分団の助けも借りた。トラックは16時33分、電気設備は 16 時 47 分に鎮火した。
「消火栓までを使って毎年訓練していたことが大きい。それに最初に到着したサンエツ金属の役員が過去に消防団に入っていた活動の経験も生かされた」と説明する。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/09/02
-
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方