ソーシャルメディアの普及により、企業のレピュテーションリスクは飛躍的に高まっています。最近発生したタレント「フワちゃん」のSNS炎上事例は、その典型例と言えるでしょう。
しかし、多くの企業のリスク管理担当者にとって、このような事例は「他人事」と映るかもしれません。なぜなら、日本の事業会社では往々にしてリスク管理部門と広報部門の連携が不十分だからです。リスク管理部門は定量的分析に偏重し、広報部門はリスク管理を自身の職務範囲外と考える傾向があります。
そこで本稿では、この組織的課題に焦点を当て、リスク管理と広報の戦略的統合アプローチの重要性と実践方法について、フワちゃんの事例と、アメリカのPR専門家レイチェルさんのTikTok炎上事例を比較しながら論じていきます。
フワちゃん炎上のケーススタディ
2023年8月、タレントのフワちゃんがSNS上で起こした騒動は大きなニュースとなりました。
事の発端は、お笑いタレントのやす子さんがXに投稿した「やす子オリンピック 生きてるだけで偉いので皆 優勝でーす」というメッセージでした。これに対し、フワちゃんは「おまえは偉くないので、死んでくださーい 予選敗退でーす」と返信したのです。
この不適切な発言は瞬く間に拡散され、大きな批判を浴びることとなりました。フワちゃんは直ちに投稿を削除し、謝罪を行いましたが、事態は収束するどころか、さらなる悪化を招きました。
結果として、フワちゃんがパーソナリティを務めるラジオ番組「フワちゃんのオールナイトニッポン0(ゼロ)」が放送休止となり、出演していたGoogle PixelのCMも公開停止に追い込まれました。それまでYouTube、テレビ、CM、さらにはプロレスデビューまでこなし、メディアで見ない日はないほどの人気を誇っていたフワちゃんですが、この一件により、その評価は大きく揺らぐこととなったのです。
この事例をリスク管理の観点から分析すると、SNS利用に関するリスクアセスメントの欠如、投稿前のチェック体制の不在、そして初期対応の遅れによる事態の悪化が主な問題点として浮かび上がります。一方、広報の視点からは、謝罪のタイミングとコンテンツの不適切さ、スポンサー企業等への対応の遅れ、そして事後のコミュニケーション計画の不在が課題として指摘できます。
この事例は、個人タレントの問題に留まらず、企業のリスク管理と広報の在り方に重要な示唆を与えています。
レイチェルTikTok 炎上のケーススタディ
一方アメリカでは、PR専門家のレイチェル・パリッシュ(Rachel Parrish)さんが予期せぬTikTok炎上を経験し、効果的な対応策を示しました。
レイチェルさんは普段、「広報担当者の本音」シリーズでPRの裏側を紹介する動画を投稿していましたが、2023年7月15日、ラスベガスでのクラブ体験後に撮影した動画が思わぬ反響を呼んだのです。
この動画で彼女は、「最近のクラブ文化って変わったわね。若い子たちがハイヒールを履かなくなってるの」と述べ、「34歳の私たちがハイヒールの履き方を教えに復帰する必要があるかしら?」と冗談めかして話しました。そして、自身が着ていた鮮やかな緑のミニドレスと白いサンダルヒールを披露したのです。
ところが、この何気ない動画が爆発的に拡散され、なんと2000万回以上も再生されてしまいました。多くのユーザーがレイチェルさんのファッションセンスや年齢に関するコメントを批判し、彼女は突如として炎上の渦中に置かれることになったのです。
その後、彼女はまず、この騒動が自分の人格や職業倫理を攻撃するものではないと冷静に判断しました。そして、炎上コメントの読み込みをすぐに止め、感情的にならないよう自制したのです。
次に、「これは本当に危機と言えるのか?」を判断するためのチェックリストを活用しました。彼女は、この騒動が自分の誠実さや人格を疑うものではなく、単にファッションセンスへの批判であること、そして家族や友人たちがこの騒動に巻き込まれていないことを確認しました。
これらの分析に基づき、レイチェルさんはすぐに動画を削除するのではなく、あえて一定期間沈黙することを選びました。「動画を消せば、他の良質なコンテンツまで見られなくなってしまう」と考えたのです。
そして1週間後、彼女はフォローアップ動画を投稿しました。このタイミングには明確な狙いがありました。TikTokで動画から収入を得るには1万人のフォロワーが必要で、この期間中にフォロワー数が必要な数に達するのを待っていたのです。
フォローアップ動画では、本来の持ち味である「広報担当者の本音」シリーズに戻り、PR専門家としての自分の立場を改めて示しました。彼女は問題となった緑のドレスを背景に飾り、自らを「緑ドレスの女」と呼ぶなど、自分をネタにしたユーモアも交えて対応しました。
この動画で、自分のキャリアや実績を改めて紹介し、単なるネタ的存在以上の人間性を示すことに成功しました。結果として、この動画は200万回以上も再生され、コメントの大半が「さすが!」「かっこいい!」といった好意的なものになりました。
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