2014/06/09
防災・危機管理ニュース
17年間の耐久性で環境負荷低減・コストメリットも追及
インタビュー International Flood Control社
ポール・ヴィッカーズ社長
「土のう」に代わる洪水対策製品としてカナダの浸水対策商品「タイガーダム」が注目を集めている。太く頑丈なチューブに、水を急速注入することで「水のう」を作り、洪水などの浸水を防ぐというもの。太さや長さが自由に設計でき、太さは直径60センチから技術的には最大8メートルまで、長さも数メートルのものから数キロまでニーズや設置環境に応じて設置することが可能だ。従来の土のうは、安価な半面、土砂を詰めて運搬して設置するなど、手間や時間がかかり、使用後の土砂や袋の処分についても課題があった。タイガーダムは、短時間で設置できることが最大の特長で、17年間という長期間にわたり使い続けられる耐久性を併せ持つ。大手保険会社FM Global(米ロードアイランド州ジョンストン)による防災認証「FM認定」取得を受け、北米を中心に導入が進んでいる。2013年に米ニューヨークなどを襲ったハリケーンサンディでは、電力会社や金融機関、保険会社らが、浸水対策として採用し、日本でも、自治体、企業を中心に同製品を活用する組織が増えている。開発メーカーのInternational Flood Control社のポール・ヴィッカーズ社長に聞いた。

Q、洪水の被害が世界的に増えていますが、対策としてどのような問題があると考えていますか?
災害は止めることができない。むしろ、異常気象により今後は大洪水のような被害が増えることが懸念されている。問題は、影響をいかに最小化するかだ。しかし、残念ながら十分な対策が講じられているとは言えない。従来の土のうの浸水対策では、設置するのに多大な時間を要し、せっかく土のうを積み上げても、洪水の威力により崩れ落ち、被害が防ぎきれないケースが多い。それどころか、被害を増大させてしまっていることもある。
近年、アメリカ中西部でおきた大洪水では、1つの災害が別の災害を引き起こしたと指摘された。ボランティアの手により何万個もの土のうが積まれたが、洪水後に、街中は土のうの砂であふれかえり、それを清掃するために、多大な費用と労力が必要になった。また、使用後の土のうを放置しておいたことでバクテリアが繁殖し、その砂に触れた人が感染し、重症になったことも報告されている。
Q.タイガーダムは土のうに比べ、何が優れているのでしょう?
世界的なシェアでみると、浸水対策の99%は、依然として土のうが使われている。しかし、私に言わせれば、土のうは500年前のテクノロジーだ。設置スピードを考えても土を詰め、封をして、それをトラックで運ぶなど多大な時間と人手が必要になる。これでは人の命と財産を守ることはできない。
タイガーダムは、土のうと比べ短時間での設置が可能だ。300個分相当の止水壁をつくる場合でも、大人2人が約10分で簡単に設置できる。従来の土のうなら10時間はかかるだろう。真夜中に大雨が降る事態を考えれば、人手を確保するだけでも大変なことだ。災害被害を最小限化するには、設置スピードを早め、少ない人数で効率的に対応することが求められる。
環境への負荷を考えても、土のうは使い終わった後の土砂や袋の処分が大きな課題になるが、タイガーダムならチューブ内の水を排水するだけでいい。
土のう(砂袋) | タイガーダム(50FT) | |
必要数量 | 約300個 | 1本 |
注水(作業時間) | 約3時間 | 約10分 |
設置時間 | 約7時間 | 約10分 |
合計時間 | 約10時間 | 約20分 |
※土のうの数値は国交省積算資料参照
Q. しかし、土のうは安くて手軽に購入できます。それは単なる神話だ。確かに袋そのものは安い。しかし、袋に土砂を詰める人件費や運搬費、処分費まで考えれば、とても高い買い物と言っていい。その点、タイガーダムは何度も繰り返し使えるため、使えば使うほどコストメリットを出すことができ、結果、はるかに費用が抑えられる。穴があいたり破れたとしても、タイヤのパンク修理のように手軽に修理して使うことができる(写真右)。これから洪水被害が増えることを考えれば、毎年、土のうのために予算を積み上げるのはナンセンスだ。
Q.自治体では、一度に多額の予算を確保することは難しい現状もあります。
すべての自治体が購入しなくても、ある自治体が購入しておくことで、使い回すことはできる。タイガーダムは持ち運びが容易なため、相互支援のツールとして非常に適している。土のうのように土を詰めてから運ぶのではなく、小さく折りたたんだチューブを持って行き、現地で水を詰めるだけで設置することができる。
Q.水道水などが確保できない場合は、どうなりますか?
エンジン付ポンプで水はどこからでも注入することができる。洪水の水を利用することも可能だ。
Q.堤防から水があふれ出すような外水氾濫では、かなり水の威力が強く、水のうが流されてしまうのではないでしょうか?
そうしたことがないよう、アンカー施工ができるようになっている。あらかじめ、洪水被害が予想される場所にタイガーダム設置用の杭を打っておけば、素早く設置することができる。長さや高さも自由にカスタムメイドでき、カーブ状にも設置もできるため、状況に応じて最適な対策を講じることが可能だ。施工上のポイントは、洪水の被害予想に基づき、必要な規模、放水路の位置などを決めておくことが重要になる。
北米地域を中心に約130案件の実績を持っている。2005年に米南東部を襲ったハリケーン「カトリーナ」の浸水対策として採用され、メディアなどでも広く取り上げられた。
また、一昨年にニューヨークを襲ったハリケーンサンディでも、金融機関や電力会社、商業施設らが弊社の製品を使い、早期の事業再開を可能にした。
洪水対策だけでなく、メキシコ湾オイル流出事故の際には、汚染被害の拡大防止のため海岸線にタイガーダムが設置された。現在では、米国国家石油備蓄基地でもタイガーダムが完備されている。
Q.日本での活用へのアドバイスがあれば教えてください。
既に多くの自治体、企業で導入してもらっているが、日本は小さな島で、東京のように、都市に主要機関を集約化したコンパクトシティが点在している。交通機関が整備され、便利で環境負荷も少ない魅力的な国だ。しかし、半面、ハリケーンや洪水のリスクが大きい。自治体はじめ、事業者が、生命、財産を守ることを考え、とにかく影響を最小限化させる方法を構築しておくべきだろう。
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方