形式化したガイドラインが同調圧力を助長する
第73回:ルール至上主義の弊害(2)

多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
2024/10/15
再考・日本の危機管理-いま何が課題か
多田 芳昭
一部上場企業でセキュリティー事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティー管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任し、2020年にLogINラボを設立しコンサル事業活動中。領域はDX、セキュリティー管理、個人情報管理、危機管理、バックオフィス運用管理、資材・設備調達改革、人材育成など広範囲。バイアスを排除した情報分析、戦略策定支援、人材開発支援が強み。
ルールやガイドラインはそれを守ること自体が目的ではない。このことに異論を持つ方はいないだろうし、論理的な反論などできようがない。しかし、実態はかけ離れているのではないだろうか、というのが今回のシリーズにおける筆者の主張であり、その結果生まれるリスクを問題視するものだ。
周辺に存在するルールやガイドラインを真剣かつ冷静にもう一度見てもらいたい。本来の目的を達成するために最適になっているだろうか、ガイドラインを守ることが目的化していないだろうか、目的を見失っていないだろうか、と。一例として、筆者の体験的観点を前回でお伝えした。
こんなことを言うと身もふたもないかもしれないが、本音の理想論でいえば、目的さえ浸透すれば、ガイドラインなど不要どころかむしろ邪魔になる。それでも多くの人は「どうしたらいいかわからない」「具体的にやるべきことを示してほしい」という思考停止状態に陥る。そして箸の上げ下げまでの詳細にわたる記述を求める。それが思考停止状態に輪をかけ『やっている感』という間違った安心につながり、目的を見失うのだが。
この思考停止状態が蔓延すると、企業経営におけるガイドラインなども大きな影響を受ける。あたり前だろう。社会的な同調圧力が企業活動にも及ぶのだから。
そうなると、ガイドラインが存在しないことに対する批判を恐れ、形骸化したガイドラインがつくり出され、通達される。それを受ける従業員は、思考停止状態で言葉面を追いかけて右往左往し、一部では勝手な解釈でアリバイづくり的感覚での自己正当化が横行してしまう。この現象は偽装実行そのものでもあり、不正にすらつながるといってもいいだろう。
それはあまりにも極論が過ぎるだろうと感じられるかもしれない。実際に通達された指針は、Eラーニングなどで優等生的な生徒が理解を示していて目的は浸透しているとの主張もあるだろう。
しかし、その優等生たちの現場での行動はどうなっているか、という観点でつなげる仕組みが乏しいのではないだろうか。あるいは、現場行動とつなげたとしても、それをチェックする視点が目的を見失って、文字面を追いかけるだけの誤魔化しになっていないだろうか。
このように。企業内に存在するガイドラインや指針などのルールに向き合い、その問題性を顕在化するには、やはり社会に横行する形骸化したルールの類に対し、その本質を考える姿勢が必要不可欠だと確信している。
再考・日本の危機管理-いま何が課題かの他の記事
おすすめ記事
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方