2025/01/16
防災・危機管理ニュース
阪神大震災から17日で30年を迎える。防災研究の第一人者で、自身も震災を経験した室崎益輝神戸大名誉教授(防災計画)は、震災後に防災意識が向上した一方、避難所の劣悪な環境などは変わっていないと指摘。「先送りしてきた課題に向き合い、議論すべき時だ」と訴える。
「あまりにひどくて、自然に涙が出た」。震災当日、会議で大阪にいた室崎さんは、翌日神戸に戻りショックを受けた。家々が無残に壊れ、風景が一変していた。研究者として被災地に赴いては写真を撮って調査してきたが、自らが当事者になるとカメラを向けることができなかった。
発生前から兵庫県や神戸市の防災に関わっていたが、「思っていた被害をはるかに超えていた」と反省した。過去の記録から最大でも震度5強と想定していたが、実際は震度7。「未来に起こり得る可能性を考えなくてはいけないと分かった」。震災後は大学のゼミも一般に公開し、講演会などで市民と直接話す機会を増やした。
震災では、地域コミュニティーの大切さを痛感した。消防が機能しない中、倒壊した家屋から人を助け出し、消火活動に当たったのは地域の人たちだった。市民が普段から自発的に防災を考える「地区防災計画」は、その後全国に広がった。
プレハブではない木造の戸建て仮設住宅が造られるようになり、医療や土木の専門的ボランティア団体が増えたのは震災後の進歩だと評価する。一方で、避難所の環境がいつまでも変わらないことを問題視。被災者は我慢しなければいけないという風潮があり、改善の機運さえないと憂える。
震災から30年がたつが、神戸市内は過密状態が解消されず、火事になりにくい街にする計画は進まない。生活の再建を優先し、先送りしてきた課題が残されたままになっている。
「震災は社会の課題に気付かせてくれる」と語る室崎さん。能登半島地震では、過疎地対策の不足を突き付けられたという。「次は南海トラフ地震が起き、30万人が死んでから気付くのか。市民それぞれが地域の課題にしっかり向き合い、全力で議論する時だ」と力を込めた。
〔写真説明〕取材に応じる室崎益輝神戸大名誉教授=12日、兵庫県西宮市
〔写真説明〕講演する室崎益輝神戸大名誉教授=12日、兵庫県西宮市
(ニュース提供元:時事通信社)


防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/07/01
-
-
-
「ビジネスイネーブラー」へ進化するセキュリティ組織
昨年、累計出品数が40億を突破し、流通取引総額が1兆円を超えたフリマアプリ「メルカリ」。オンラインサービス上では日々膨大な数の取引が行われています。顧客の利便性や従業員の生産性を落とさず、安全と信頼を高めるセキュリティ戦略について、執行役員CISOの市原尚久氏に聞きました。
2025/06/29
-
-
-
柔軟性と合理性で守る職場ハイブリッド勤務時代の“リアル”な改善
比較サイトの先駆けである「価格.com」やユーザー評価を重視した飲食店検索サイトの「食べログ」を運営し、現在は20を超えるサービスを提供するカカクコム(東京都渋谷区、村上敦浩代表取締役社長)。同社は新型コロナウイルス流行による出社率の低下をきっかけに、発災時に機能する防災体制に向けて改善に取り組んだ。誰が出社しているかわからない状況に対応するため、柔軟な組織づくりやマルチタスク化によるリスク分散など効果を重視した防災対策を進めている。
2025/06/20
-
サイバーセキュリティを経営層に響かせよ
デジタル依存が拡大しサイバーリスクが増大する昨今、セキュリティ対策は情報資産や顧客・従業員を守るだけでなく、DXを加速させていくうえでも必須の取り組みです。これからの時代に求められるセキュリティマネジメントのあり方とは、それを組織にどう実装させるのか。東海大学情報通信学部教授で学部長の三角育生氏に聞きました。
2025/06/17
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方