2018/09/27
AIブームとリスクのあれこれ
■電話予約を代行してくれるAI
今年の5月、グーグルは「Google I/O 2018」と呼ばれる開発者向けの会議で基調講演を行いました。この中でひときわ注目を浴びた最新技術が、ユーザーの代わりに店に電話予約をしてくれるGoogleアシスタントと呼ばれるAIです。この講演では美容院とレストランに電話予約をするやり取りが公開されました。
まずスマートフォンなどを使って美容院に行きたい日時をGoogleアシスタントに伝えると、Googleアシスタントはその予約の日時を電話で店側(こちらはもちろん人間)に伝えます。例えば「5月3日にヘアカットを希望したいのですが」とアシスタントが店に問い合わせる。店のスタッフが「少しお待ちください…何時頃をご希望ですか?」とたずねる。アシスタント:「12時です」。店のスタッフ:「あいにく塞がっています。一番早くて1時15分になります」と返答。アシスタント:「では10時~12時の間は?」…といった感じです。AIが相づちを打つ音声なども入っていて、デモのダイアローグを聞いている分には人間同士の会話とまったく変わりません。
開発責任者のスンダー・ピチャイCEOによると、米国ではスモールビジネスの6割は電話予約機能を装備していないとのこと。多忙な朝に子供の病院の予約をしたり、予約の取りにくい人気レストランに繰り返し電話して予約を取ってくれるなどの便利さも期待できます。この人間とまったく変わらない対話を行う技術は「Duplex」と呼ばれるAIシステムで、自然言語理解やディープラーニングなどを駆使して人間らしい会話ができるよう設計されていると言います。
Googleアシスタントは今後、6人分の新しい「声の主」を追加する予定もあるそうです。基調講演では、歌手のジョン・レジェンドの声でレストランの予約代行する様子が公開されています。同社はこのアシスタントを、2018年末までに80カ国、30言語に増やすとのこと。すごい時代になったものです。
■人間相手の反論を論破できるAI
一方、今年の6月、より人間らしく考えて相手と討論できるコンピュータがサンフランシスコでデモンストレーションを行いました。IBMが開発した「Project Debater」と呼ばれるAIシステムです。IBMによると1台のAIと人間の討論者が公開討論を行うのはこれが初めてとのこと。あらかじめ討論のためのテーマが2つ用意されているのですが、人間の討論者にもAIにも前もって知らされてはおらず、事前にAIに学習させているわけでもありません。
2つのテーマのうち1つを紹介しましょう。議題は「政府は宇宙探査に補助金を出すべきだ」というものでした。AIはこの議題に賛成する側に立ち、人間の方(ノア・オバディアというディベートの世界チャンピオンだそうです)はこれに反論する立場で議論を戦わせます。
オバディアさんが「政府は宇宙探査よりも、もっと経済的に人々のためになる支援策を提供すべきです」と述べると、AIは「政府による宇宙への投資はとても健全なものです。経済やテクノロジーだけでなく、社会全体にとってもすばらしいことです」と反論します。
討論の途中でAIが「1分間に218ワードのあなたの言葉は速すぎます。そんなに速く話す必要はありません」と世界チャンピオンをたしなめる場面も。Project Debaterは背の高い、黒い板のような姿をしていて、女性の声で話します。ニュース記事や学術論文など膨大な情報を覚えているだけでなく、必要な情報を瞬時に検索し、それをもとに説得力のある文章に組み立てて相手に反論することができます。まるでSF映画のシーンのようです。
最終的に、この一つ目のテーマではかろうじて聴衆を納得させることができ、2つ目のテーマでは、完全にAIが人間の討論者を打ち負かしたそうです。このニュースを扱った記事の多くは「AIがディベートチャンピオンに勝利」といった見出しを掲げています。
AIブームとリスクのあれこれの他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方