トランプ関税を巡る日米交渉が7月22日(日本時間同23日)に合意してから3カ月となる。政府は深刻な経済打撃が懸念された相互関税や自動車関税の引き下げに成功した。ただ、関税負担は残り、保護主義を志向する米政権はその後も関税措置を連発し、国際通商秩序を揺さぶる。貿易の対米依存リスクが露呈する中、日本は新興・途上国も巻き込み複層的な経済連携の構築を図る。
 第2次トランプ政権の通商政策の特徴は、覇権を争う中国だけでなく、日本をはじめとした同盟国にも広範に高い関税を課した点にある。品目ごとに上限税率を定めた世界貿易機関(WTO)ルールの違反が指摘されるが、WTOの紛争処理は最終的な審理を行う上級委員の選任を米国が拒否しているため長らく機能不全に陥っている。
 この状況は、中国によるレアアース(希土類)の輸出規制などの報復措置に対し、国際ルールに基づき歯止めをかけることも困難にしている。経団連は10月半ば、「ルールに基づく自由で開かれた国際秩序が大きく揺らいでいる。現状を放置すれば、力による支配が国際社会の常態となりかねない」と警告を発した。
 政府は自由貿易体制維持へ、2国間協力や「包括的および先進的な環太平洋連携協定(CPTPP)」などの多国間の枠組みを重ね合わせて複層的な経済連携を築く戦略。エネルギーなど重要資源が乏しい日本は海外に頼らざるを得ない「構造的な制約」(2025年通商白書)を抱える。通商問題の専門家は「同調・同志国が集まり政策調整するのが日本のアプローチだ」と指摘する。
 7月の欧州連合(EU)首脳との定期協議で、石破茂首相はサプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化や自由貿易の協力枠組みの発足に合意。8月に開いた第9回アフリカ開発会議(TICAD9)や直後の日印首脳会談では、「インド洋・アフリカ経済圏イニシアティブ」も打ち出した。成長著しい二つの地域の結び付きを後押しし、自由で公正な経済圏を構築。投資や人材交流を通じて日本も成長の果実を取り込む狙いだ。
 ただ、日本にとり米国は輸出額全体の2割を占める最大の輸出先で、安全保障上、極めて重要な同盟国だ。日米交渉を担った赤沢亮正経済再生担当相は「覇権国が起こした激流の中で溺れることなく、しっかり泳ぎ切っていくことが非常に重要だ」と強調している。 

(ニュース提供元:時事通信社)