強靭な本社施設でも、床に亀裂が入るなどの被害が発生した

ハード対策は機能した。それでも見つかった新たな課題

そもそも同社は、2階建ての低層建築で、地震災害には強い構造になっている。実は、九州は、関東に比べて地震がそれほど多く発生しないなどの理由で、耐震の構造計算で用いる「地震地域係数」が低く設定されている。関東や太平洋側の多くの地域が「1.0」であるのに対し、九州の多くは「0. 8~」。そうした中でも同社は、万が一の大規模災害に耐えられるようにというコンセプトで、関東などと同じ「1.0」で2007年に本社施設を建設した。

しかし2016年の熊本地震では震度7の揺れが2回直撃し、フックで吊る構造だった天井は一部崩落。サーバールームでは免震装置にのっていたサーバーラックが壊れ、転倒するなどの被害が出た。

前回の崩落を受け、同社は天井をすべてネジで固定するリジット構造に変更し、揺れを吸収する「逃げ」も設けた。

同じ原因での天井落下は今回起きなかった。パレットに積み上げたケースを固定する結束バンドも奏功した。サーバーは、クラウド化が進みほぼデータセンターに移行している。

一方で、今回の経験から新たな課題も浮かび上がった。第一に自動倉庫だ。実際に内部を確認してみると、想定を上回る揺れに対して、さらに改善できる余地があることに気づかされたという。

「例えば、鉄製の棚とプラスチック製パレットの組み合わせは滑りやすい特性がありますが、接地面にゴム素材などの滑り止めを工夫することで、より安定感が増すのではないかと考えています。また、従来から4カ所に脱落防止のストッパーを備えてはいましたが、今回のような複雑で激しい揺れに対しては、さらに多角的で立体的な落下防止策が必要だと痛感しました。現在、どのような揺れにも対応し荷物を守れるよう、自動倉庫メーカー様とも緊密に連携しながら新たな対策を検討しているところです。今回の教訓を活かして共に改良を重ねていけば、さらに災害に強い強靭な倉庫を構築できると確信しています」

第二に、対策本部の情報収集環境。テレビが限られた場所にしかなく、指揮を執る場所で情報が取りにくかったことは「反省点」だという。

そして西川氏が「泣きそうになった」と語るのが、個人の携帯電話の取り扱いだ。同社のコールセンターは顧客の個人情報を扱うため、執務フロアへの私物携帯の持ち込みを禁止し、ロッカーに預ける運用としている。発災時、避難した社員はすぐには携帯を取りに戻れなかった。

「会社携帯を持つ管理職は家族や子どもの安否を確認できているのに、それを持ち込めない社員が見ている。裏切り行為をしてしまったなと、すごく胸が痛かった。ただ、個人情報を漏らすことは絶対にあってはならない。軽々しく『持たせればいい』と言われますが、実は非常に重たい問題です。ものづくりの工場内に携帯を持ち込みますか、という話にも行き着く。安全と情報管理をどう両立させるか、できるだけ近くに置ける方法を考えてみたいと思っています」

地震後、復旧した作業 場。地震でも積み荷 が崩れないようにす る結束バンドは、2016 年の熊本地震後に購 入したものだという

社員寮を被災した母子に無償開放
「後で振り返って、何もできなかったと思いたくない」

地域支援では、社員寮の空室を利用できる環境を整え、被災地域の母子に一時住居として開放した。X(旧Twitter)での発信を皮切りにニュースリリースを出し、地元メディアのラジオやYouTubeでも避難場所情報として紹介された。

「とにかく何かしていかないと、と。後で振り返ったときに『何もできなかった』と思いたくない自分がいたんです。寮が空いているじゃないか、でも女子寮だから誰でも入れられるわけじゃない。じゃあ母子に限定しよう、と」

現在入居しているのは数組。被災地の役所に勤める夫が災害対応で帰宅できず、3 歳の子どもと2 人きりになった母子や、受験勉強に集中できる環境を失った子どものいる家族など、運用は柔軟だ。期間は目安1カ月としつつ、仮設住宅など今後の見通しが立たない中「状況に合わせて個別にご相談しながら、できる限り対応していく」(広報担当者)という。

社内では、夏休み中の子どもたちを本社で預かる取り組みも始めた。自治体の指示で保育園が休園になった社員の子は社員専用保育園で受け入れ、地元の学童が閉所している子どもは全社員が交代で見守る。子どもたちは社員食堂で昼食をとり、時にはバドミントン実業団選手が練習する体育館で体を動かす。「家に子どもを置きっぱなしでは仕事に集中できない。人財部で実施していたのですが、全社員が協力して動いてくれました。保育園や学童に預けられないとなると、親はどうしようもない。自分たちでコントロールできないことに対して、みんなで力を合わせてやれることがあればやればいい」(西川氏)

水道水が濁り水で飲用不可となった期間も社員食堂は大釜で調理を続け、カレーなどを提供し続けた。発災後、一般のボランティア受付が始まると、5~10人1組で社員を被災地に派遣。被災家屋の片付けなどにあたっている。

やらないリスクより、やるリスクをとる

受け入れの期間や子どもの安全、風評など、支援活動には当然リスクもつきまとう。批判を恐れて支援をためらうことはないのか。西川氏は「何もしなければリスクはないかもしれませんが、何もしないなら存在意義がない。やって叩かれた方が、やらないで流してしまうよりいい。炎上は嫌ですけれど、自分たちの正義があると思って決断しています。本当に助かってくれている人がいる。それがエネルギーです」と語る。

同社は企業理念として「社会にとってなくてはならない会社」を掲げる。その理念が災害復旧、支援活動すべてに色濃く映し出されている。

株式会社再春館製薬所

1932 年創業、熊本県益城町に本社を置き、「痛散湯」や「ドモホルンリンクル」をはじめ、漢方理念に基づく医薬品・医薬部外品・化粧品の製造販売を行う「漢方の製薬会社」。「自然とつながり、人とつながる明日を」という企業理念のもと、サステナビリティ活動、自社運営の「ふるさと納税サイト」を活用した復興支援などを通じて、多角的な観点で理念の実践を追求。2032 年の創業100 周年に向け、「明日が楽しみと思える毎日をつくりたい」という意志を込めた「ポジティブエイジカンパニー宣言」を発表している。 従業員数は828 人(2026 年4 月現在)。 2016 年熊本地震では2 度の震度7 に見舞われ、2026 年7月28日の令和8年熊本地震でも本社所在地の益城町で震度6 強を観測。度重なる大規模地震を経験している。