夜になっても人通りが絶えないサンシャイン通り。大きな地震が発生したら・・(Photo AC)

東京都23区内の災害対策は多様です。それは、地形や過去の経験が様々だから。お住まいの地域の防災対策が「その区ならでは」のものになっていることをご存知ですか?まずは、住んでいるまちのことを知り、そのまちで安心して暮らすための対策を知る。その行動次第であなたの大切な人の命が救われるとしたら…?
ご両親やご友人が住んでいる区はどのようになっているでしょうか?
23区の「その区ならでは」をここで一挙にお伝えしていきます!


豊島区は、人口28万9240人(2018年10月1日現在)。大きく4つに分けると、「池袋」「大塚・巣鴨・駒込」「長崎・千早」「雑司ヶ谷・目白」エリアがあります。池袋駅では、一日の乗降者数が250万人を超えるとのこと。

「大塚・巣鴨・駒込」には、毎年行われる「東京大塚阿波踊り」や「すがも中山道菊まつり」などイベントが開催されたり、江戸時代から「園芸の街」として賑わいを見せていた駒込など、花に彩られた街並みが続きます。

「長崎・千早」は、豊島区の西側に位置し、絵や彫刻を勉強する学生向けのアトリエ住宅「アトリエ村」や日本のマンガの歴史をつくった手塚治虫や石ノ森章太郎、赤塚不二夫、藤子不二雄が住んだトキワ荘が所在するなど、芸術や文化を発信する町です。

「雑司ヶ谷・目白」は、大学や庭園が広がり、緑が多い街並みとなっています。2015年には豊島区の新庁舎が移転。また分譲マンションの大量供給が、いわゆる都心回帰を促し、豊島区の人口は増加傾向になっています。

人口の増加や、多くの乗降者数を抱える池袋駅がある豊島区は、帰宅困難者や障害者、高齢者などの災害時要援護者への取り組みに関する課題が挙げられており、解決に向け、全区を挙げて対応が進められています。東日本大震災の時、多くの人が池袋駅周辺に滞留していた情景が蘇る方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この豊島区でどのような防災対応が進められているのか。豊島区総務部防災危機管理課 訓練計画グループリーダー 櫻井俊哉さん、同じく防災危機管理課 訓練計画グループ 小川雄大さん、4月に新設された保健福祉部福祉総務課 災害対策グループリーダー 大浦幹夫さん、同じく福祉総務課 災害対策グループ 中野靖子さんにお話をお伺いしました。

体系化された実践的な訓練を年20回実施!

防災危機管理課が進めている訓練は、機能別訓練、総合訓練の大きく分けて2つ。「機能別訓練では、本部(災害が発生し、臨時に設置される機関)開設訓練が年3回、豊島区で使っているシステムを活用した通信訓練が年4回、発災時どういった連絡体制をとって本庁舎に参集するか確認する緊急登庁訓練を年3回実施しています。総合訓練では、図上訓練(地図を用いて災害対策を検討する訓練)と実動訓練、その他にも帰宅困難者対策訓練を実施し、年に約20回の訓練を実施しています」と入庁3年目の小川さんは、スラスラと訓練内容を伝えてくださいました。「1年間のほとんど、発災を見据えた訓練を行っています。訓練でできないものは実際できるはずがないという考えのもとに実施しています」と緊張感を持って進める訓練について櫻井さんは語ります。

生活しているまちでは、災害が発生したら、行政の方々がスムーズにそして適切に行動できるように、年に20回以上もの訓練を繰り返されているのですね。では、私たち生活者は何を備えることができるのか改めて考え直したいものです。

写真を拡大 年間を通して、訓練が体系立てられた計画に基づき行われています。
写真を拡大 (訓練計画のシートキャプション:計画的に実践的な訓練を年間を通じて実施されています。)

帰宅困難者対策は急務!

現在、豊島区内で想定されている帰宅困難者が5万3000人。「豊島区ではホテル、百貨店などと協定を結んでおり、そこへの避難体制は整ってきています。しかし、現状その収容数は5万3000人の約3割に留まっています」(小川さん)。
「5万3000人がただ単に滞留するのか、それとも集まってきてしまうのか…。東日本大震災の際は、当時の区役所庁舎近くの中池袋公園に、情報を求めに人が集まり、池袋駅までの道に人が続きました。駅周辺が大混乱で、夜中、明け方までの徒歩での帰宅がずっと続いていました。豊島区の状況、置かれている位置づけに基づき訓練を続けています」(櫻井さん)。

帰宅困難者対策訓練を推進しているのが、池袋駅周辺の事業者、町会他関係団体で構成されている「池袋駅周辺混乱防止対策協議会」です。

「区だけで対応するのは限界があるので、民間、関係団体、各組織と連携して有事の際の連携を検討しています。2007年6月に池袋駅周辺の帰宅困難者対策の検討に着手、2008年に体制が拡充して、協議会が成立しました。年4回の会議には、事業者の皆様も協力してくださっています」(小川さん)。

2009年からは、協議会の主催によって年1回「帰宅困難者対策訓練」が実施されており、駅周辺の企業社員や住民など約1000人の方が参加しています。訓練を通じて日々改善を繰り返されています。例えば、これまでは帰宅困難者を一時滞在施設にどのように案内するのかが課題でした。そこで、チケットの配布という試みを実施しています。チケットの裏面に地図を載せたりして、目的地まで迅速に案内できるように作成しました。

大規模災害時の対応の流れを小川さんが説明してくださいました。
「実際に発災したら、まず、帰宅困難者対策拠点を立ち上げます。そして、JR池袋駅敷地内に「現地連絡調整所」、JR池袋駅の東口・西口それぞれに「情報提供ステーション」と「備蓄物資集積配分場」が設置されます。備蓄物資集積配分場とは、帰宅困難者用の備蓄物資を配る場所のことで、西口は東京芸術劇場のある池袋西口公園、東口は南池袋公園が指定されています。

滞留した方々は、各情報提供ステーションに行き、被害・ライフラインの状況などの情報を入手した後、どこに避難したらいいのかが書かれているチケットを受け取り、一時滞在施設となるホテル、大学、金融機関、商業施設、区役所などに移動していただきます。

訓練の一部として、さらに避難先の一時滞在施設の事業者の方々が訓練を準備してくださっていて、その訓練に参加者の方は参加して終了となります」(小川さん)。スラスラとお話される小川さんのように頭と身体で災害時の動きを覚えることにより、いざという時に自然と身体が動くのだと改めて実感させていただきました。

いざというときにできるだけスムーズに動くために訓練を繰り返す小川さん

元陸上自衛隊の危機管理監から伝授!

2016年1月、陸上自衛隊OBの今浦勇紀さんが危機管理監に就任され、豊島区の防災への取り組みが一変したとのこと。「『訓練を繰り返すことで防災の対策や対応を身に着けていくことが大事』と常に管理監に伝えてもらっています。訓練に対する姿勢が変わりました」と小川さんは実感しています。

訓練は、一つひとつに必ず目的と目標を設定しています。例えば、災害対策本部の開設運営訓練では、スタートから40分で立ち上げるという目標を立てています。

「今までは早くても1時間でした。それが今回の訓練では、災害対策本部に従事してくれる人たちが迅速に開設できるように、工夫して計画を策定し、結果として目標の40分を達成することができました。まだ細かいところの修正は必要ですが…、40分達成したのです」(小川さん)。

「3年繰り返して、やっと達成しました。人数が増えれば早くなるかというとそうではない。どのように実施するか、工夫するかを常に考えないといけないと思っています。管理監からは『同じところで留まっていてはだめ。やるべきことは前倒し、早めに』と常々をアドバイスもらっています」(櫻井さん)。緊張感を持った上で実践的な訓練を繰り返し実施すること、訓練のための訓練になりがちな日々に管理監から刺激をいただいたように感じました。

地域で行われる訓練も同じ。毎年同じ訓練を行事のように繰り返すのではなく、「どのような災害が発生したと想定しているのか」と具体的にイメージを膨らませて、訓練の意味をご家族やご近所の方と会話をしながら進めると、新たな発見が生まれてくるかもしれません。

いざというときに区民の方々と一緒に乗り越えられることができるように…と日々挑む櫻井さん。

システムを全職員が活用できるように…

現在、通信訓練などでも活用している豊島区独自のシステムがあります。
(災害対策)本部には、70インチの大型液晶モニタが3台設置されます。左側に池袋駅周辺の映像を状況把握するために流し続けます。右側に総合防災システムで入力した被災状況のデータが時系列で流れていきます。

そして中央の画面がテレビ会議。本部と災害対策拠点を結び、ライフラインが断絶した状況でも通信が確保しています。このシステムを活用することで、池袋駅周辺がどんな状況か、豊島区全体でどのようなことが起きているのか、被害状況、避難者の状況を時系列で追い、豊島区全体を把握しながら対応を検討していきます。

「このシステムを100%使えるようになれば、災害時の適切な対応に繋がっていくはず」(小川さん)と活用方法の習得に励まれています。

また、「兵棋台(へいぎだい)」というものを豊島区独自で活用しています。台の上に豊島区の地図を2枚置きます。ミニカーや学校模型を置き、豊島区の状況を創っていきます。そして本部長が今、何が起きているのかという全体像を把握できるようにしています」(櫻井さん)。システムの活用や訓練時の細かい動きなど、身体と頭をフル回転しながら取り組まれています。

「焦りますからね。訓練で落ち着いて習得しておかないと」と語る櫻井さんそして、小川さんは、訓練の蓄積からの習慣か、非常に落ち着いて物事を進められる冷静さかつ垣間見える鋭さを併せ持つ方々でした。

豊島区内の全体像を災害時に設立される本部では把握しながら、対策を練っておられますが、すべての町に行政職員の方が動いて回れる訳ではない。各地域を守るのはそこで生活している一人ひとりの力。行政と住民の役割を全うすることで、災害時を共に乗り越えることができるのですね。

「防災の仕事って、いつ来るかわからないものに対してやっているので、その日の成果ってそんなにない。やらなくてもいいんじゃないか、と言われる時もあります」。

「我々の役目は、常に有事を想定した訓練を繰り返し行い、そこで得た気づきを丁寧に対策に繋げていく。地道ですが、これに限ると思います。こうした日頃の備えこそが、いざという時の区民の皆様の生命・財産を守る。区の職員、そして住民や企業の方の総意総体で認識を強く持っていきたいです」と櫻井さん。

その言葉に、防災危機管理課だけでなく、区の職員、住民や企業も一緒になって取り組む「総意総体」の重要性を改めて実感させていただきました。

様々な訓練内容についてのお話が出てきました。災害時、まちで何が起きて、行政としてどのように備えられているのか見ることができる訓練。一度参加してみると状況が想像しやすいかもしれません。そこで経験したことを踏まえ、自分たちが避難する場所はどのような体制になっているのか、避難せずに家で過ごすためには何を準備すればいいのかを身近なところに置き換えて家族やご友人とのお話を始めてみてください。

次号は、実際に、部局を横断して防災について検討するために設立された保健福祉部 福祉総務課 災害対策グループの方々にお話をお伺いしています。

(了)