米国紙NYTの若き発行人は断言する~<トランプ政権にも恐れることなく向き合う>
デジタル新聞時代に突入、地方紙衰退・最大の危機の一つ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2018/12/10
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
アメリカのドナルド・トランプ大統領が声を荒げて連発する「フェイクニュース(虚偽報道)」との「暴言」に対してアメリカの主要メディアはどう考え、どう反応しているのだろうか。ジャーナリストだった私は重大な関心を持ってきた。メディアに面と向かって「フェイクニュース(虚偽報道)」と叫ぶような大統領が民主主義国家アメリカに登場したのである。
そんな中、「朝日新聞」2018年10月12日付の「オピニオン&フォーラム」欄掲載の「新聞と民主主義の未来」を興味深く読んだ。むしろこの時期にこのテーマを一面すべて使って掲載した朝日新聞に敬意を表したい。
◇
アメリカを代表する新聞の一つ「ニューヨーク・タイムズ(以下、NYT)」の発行人でオーナー一族出身(6人目)のアーサー・G・サルツバーガー氏(38歳)へのインタビュー記事だ(質問者は朝日新聞ニューヨーク支局長・鵜飼啓氏)。その主要なQ&Aを引用し、私見も述べてみたい。
Q:トランプ大統領と7月にホワイトハウスで会いましたね。何を話したのですか。
A:大統領が報道官を通じて「会いたい」と言ってきたのです。掲載した記事か、あるいは掲載を目指す記事について何か言いたいことがあるのであれば、同意するかどうかはともかく、きちんと聞くのが公正な報道機関としての責務です。
<私見>トランプ大統領のサルツバーガー氏を招いた背景をもっと語って欲しかった。言えないだろうが…。
Q:トランプ大統領はNYTを含めたメディアを「フェイク(偽)ニュース」「国民の敵」などと呼んでいます。
A:我々の報道に対する懸念であればしっかり耳を傾けようと思う一方、私の方でもこの機会を生かし、大統領のメディア攻撃に対する懸念を伝えておきたいと考えました。執務室で面と向かい、こう言いました。「大統領自身も真実ではないと知っているはずの『フェイクニュース』という言い方にはがっかりするが、私は『国民の敵』という発言をより強く心配している。暴力を招くような危険な空気を生んでいる」と。
Q:効果はありましたか。
A:話した時は大統領も耳を傾けていると感じました。こうした言い方が外国の独裁者が報道を抑圧する口実に使われると指摘したら、懸念を示していました。正確な発言は忘れましたが、「言いすぎだったかもしれない」ということも言い、考えると約束していました。
ところが、会談から1週間もたたないうちにメディア批判のトーンは元に戻ってしまいました。結局、行動に何の変化もみたらすことはありませんでしたが、メディアの人間が本人に直接伝えたという事実が公に残ったことは重要だと思います。
<私見>トランプ大統領はNYTやワシントン・ポストなど一流紙を敵視している、ことを裏付けたようなエピソードだ。
Q:NYTはトランプ大統領の蓄財をめぐる大がかりな調査報道を掲載したばかりです。トランプ政権にはどういう姿勢で向き合っていますか。
A:他の政権に対するのと同じ姿勢です。独立の立場から、恐れることなく向き合うということです。ワシントン支局や調査報道チームが、政府のあり方や国際的な問題における国の立場を急速に転換しつつあるこの政権を、あらゆる角度から点検しています。大統領個人の資産についても、取材チームが徹底して調べました。
記者の仕事を支えるため、ひいては読者のために最も大事なことは、事実を掘り起こす時間を与え、そのサポートをすることだと考えます。今回の調査報道には18カ月費やしました。その結果、今まで明らかにできなかったことを掘り起こすことができたのです。
<私見>調査報道に18カ月もかけたNYTに敬意を表するとともに、トランプは「叩けばホコリの出る」男とにらんでいたことを間接的ににおわせている。
Q:NYTは1971年、ベトナム戦争をめぐる米政府の秘密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」の内容を報じ、ニクソン政権と対立しました。あなたの祖父は差し止めを求めた政府と戦い、掲載の権利を勝ち取りました。民主主義とメディアの関係をどう考えますか。
A:民主主義における独立した報道機関の役割は、置き換えることの出来ないものです。米国の建国の父たちは、人々自らが統治する社会において、報道機関がいかに不可欠な存在であるかということにしばしば言及していました。ここ数年、こうした権力に対する監視の責任を果たすだけの力を持った報道機関が減っており、非常に懸念しています。私たちがその分大きな役割を担わされています。
71年当時に比べて、メディア批判が強まっていることは心配しています。記者への殺害予告も増えています。一方で、記者たちはしっかり仕事をしようと取り組んでいます。恐れを知らず、ひいきもせず、真実を追い求める。私の祖父が発行人だった1970年代においても我々にとって大切だった考え方ですが、こうしたことばは高祖父の時代にさかのぼります。この使命に変わりはありません。
<私見>「米国の建国の父たちは、人々自らが統治する社会において、報道機関がいかに不可欠な存在であるかということにしばしば言及していました」。この発言にニューヨーク・タイムズのプライドを感じる。「ペンタゴン・ペーパーズ」の大スクープのドラマは映画にもなった。
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