2018/12/13
事例から学ぶ
内閣官房国土強靱化推進室は4日、「企業における事業継続~巨大災害時代における企業の備えと防災人材の育成~」と題したシンポジウムを北海道札幌市で開催した。9月6日未明に起きた北海道胆振東部地震において、道内に拠点をおく企業3社の災害対応や事業継続の先進事例を発表し、災害時でも経営損失を最小限におさえるBCP(事業継続計画)策定の重要性を学んだ。
シンポジウムでは、震災による大規模停電から波及する機能障害をいかに乗り切ったか、3社が当時の対応を振り返った。
セコマ「地域コミュニティへの愛着と使命感が原動力」
北海道内に1100店舗のコンビニエンスストア「セイコーマート」を展開するセコマの丸谷智保社長は、SNSなどで「神対応」と評価された災害初動態勢や、平時の1.6倍の量を扱った物流の裏側を説明した。
セコマは事前に災害対応マニュアルを策定。地震発災直後はマニュアルに基づき、本部社員や店舗スタッフが車から非常電源を確保し、停電中も店舗を営業し続けた。店舗厨房のガス釜を使った「塩おにぎり」の炊き出し販売を行い、「停電中に温かい食事ができた」など感謝された。
非常電源は、オーナーなどの車から給電して店内レジを稼働させ、停電後も道内95%の店舗が営業し続けた。非常電源セットは、車載シガーソケットの電源(DC12V)を家庭用コンセント(AC100V)に変換するコンバーター、延長コード、手元を照らすLEDライトの3点で構成されている。2011年の東日本大震災をきっかけに全1100店舗に備蓄していたという。丸谷社長は「災害時に必要な消費電力を絞り込んでいたことで、少ない電源でも継続できた」と振り返った。
一方で物流倉庫は壊滅的被害を受けた。各地の倉庫では在庫品が散乱し、大量の商品廃棄が出た。1日かけて出荷可能な状態に整理した。災害時に需要が急増する水とカップラーメンは、丸谷社長自ら飲料水や即席麺のメーカー担当者に携帯電話やSNSで直接連絡をとって調達を依頼。同社茨城県の物流センターまで配送してもらい、フェリーに積み替えて40フィートコンテナ19基分を道内に輸送した。2016年に完成した釧路配送センターでは、施設とトラック40台が3週間可動できる大量の軽油・重油を備蓄していたため、これを札幌配送センターに分配し、トラック輸送用の燃料を賄った。これにより災害協定を締結した8自治体や自衛隊、北海道警察、北海道電力への物資供給を含め、通常の1.6倍の物量を供給し続け、32日半かけて通常業務に復旧できた。
丸谷智保社長は、同社の緊急対応計画が奏功したことについて「わかりやすい装備とマニュアルづくりもあるが、それ以上に店舗スタッフが業務を通じて地域コミュニティに対して愛着と使命感を育んで自主的に動いてくれていたことが大きかった」とスタッフの対応を讃えた。また今回発災後の早急な復旧作業により被害損失を抑え、さらに今回実践した緊急対応をきっかけに平時業務の効率化につながり、月1000万円のコスト削減を実現したことで、4年半~5年程で損失分を回収できると報告。「企業がBCPを備えていれば、災害による損失を最小限に抑え、機転の利いた対応を平時に生かすこともできる。災害を通じて経営が磨かれ、強靭になっている」とBCPの成果を強調した。
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