2018/12/11
防災・危機管理ニュース

内閣府を中心とした政府の中央防災会議は11日、「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応ワーキンググループ(WG)」の第7回会合を開催。南海トラフ沿いで地震など最初の異常が起こった場合の対応について報告書のとりまとめを行った。M(マグニチュード)8以上の地震が起こった際は、被害がなかったエリアでも続く地震に備えて津波の危険のあるエリアから1週間避難することなど、最大2週間程度の警戒を呼びかけ。企業に対しても被害軽減への対応を推奨している。
南海トラフ沿いでの異常については(1)「半割れ」と言われるM8以上の地震(2)「一部割れ」と言われるM7以上8未満の地震(3)「ゆっくりすべり」と言われるプレート境界面ですべりがあり、ひずみが計測できる―の3つのケースに分類した。
「半割れ」の場合、被災地域の支援活動を行いつつ、後発地震で被害が出る恐れのあるエリアについても対応を行う必要がある。報告書ではできる限り日常生活や企業活動を維持しつつも、必要な対応として、津波の被害が見込まれる沿岸地域の住民のうち、後発地震後の避難では明らかに間に合わない住民や避難に時間がかかる要配慮者については、最初の地震発生後に避難するべきだとした。避難を検討すべき対象地域は津波で30cm以上の浸水が地震発生から30分以内に生じる地域を基本とする。
「半割れ」での後発地震に備えた企業の防災対応については、出火防止など施設の安全措置や従業員の避難などのほか、事前のデータのバックアップなどの対応を呼びかけ。一時的に企業活動が低下しても、万が一後発地震が起こった際に早期復旧できる備えをとるべきだとした。
「一部割れ」「ゆっくりすべり」の場合は新たな地震に備え警戒レベルを上げ、特に「一部割れ」の場合は必要に応じ住民は自主的な避難も実施し、企業もデータのバックアップなどで備えておくべきだとした。また異常があってから1週間は特に警戒すべき期間に設定。「半割れ」では津波など危険の高いエリアの住民は1週間避難し、さらに1週間は警戒すべき期間としている。さらに平時からの取り組みとして、建物の耐震化や備蓄などのほか、企業にはBCP(事業継続計画)の策定も呼びかけている。
報告書を基に、政府では地方自治体や企業が検討に着手し、具体的な防災対応を実施できるよう参考になるガイドラインを今後とりまとめる。会議の最後に山本順三・防災担当大臣は「WGで委員の知見をいただき、報告に至ったことはうれしい。ガイドラインを早期に提示したい」と挨拶した。
WG主査の福和伸夫・名古屋大学教授は会議後に報道陣の取材に応じ、「今回の報告はあくまで大きな方向性。ガイドラインを作る過程で、各省庁や各地域の人々と具体的な話を行う必要がある。そしてガイドラインができれば、自治体が(対応を)具体化させることになる」と述べた。ガイドライン策定の時期については「数カ月ぐらいで作らないといけない」とした。また「活動が止まると社会的影響が大きい企業などは、機能を維持する取り組みが事前から必要だ。平時から防災対策を向上させほしい」とした。
「半割れ」はこれまで103事例あり、M8クラスの後発地震が7日以内に起こったのはそのうち7事例。福和主査はこのデータをふまえ、「(大きな後発地震が起こらない)空振りはあるだろう。それでも大きな地震が起こりうる10分の1の確率に備えて情報を活用することで被害を減らせることができる」と述べた。また、「『半割れ』の場合、被害を受けた地域の支援が優先される。それ以外の地域への支援は限られるので、住民や自治体・企業でできるだけやっていかねばならない」とし、地域での自主的な取り組みの重要性を語った。
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2023/01/31
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年1月31日配信アーカイブ】
【1月31日配信で取り上げた話題】家庭での防災行動を高めるために
2023/01/31
-
-
1000人に聞いた防災の取り組みと行政への期待
リスク対策.comは、地域住民がどの程度防災に取り組んでいるのか、また防災の観点から行政に対してどのような要望を持っているのかなどを把握する目的でインターネットによるアンケート調査を実施した。その結果、2021年5月から避難勧告が廃止され避難指示に一本化されたことについては約5割しか理解していないことや、平時から国や地方自治体の防災のホームページなどがあまり活用されていない実態が明らかになった。調査は、2022年11月21日から22日にかけてインターネット上で行い、全国の20歳以上の成人男女1000人からの回答を得た。質問は、回答の質を高めるため「この質問は一番右の回答をお選びください」という条件項目を入れ、適切な回答をしなかったものを除き、計889人を有効回答として分析した。
2023/01/30
-
社内滞在時をイメージさせる実践的な訓練と備蓄
テクニカルセラミックスを開発・生産するクアーズテックは2012年、東京都の帰宅困難者対策条例を機に一斉帰宅抑制対策に乗り出しました。独自のプログラムを追加した実効性の高い訓練や被災時の心理にも配慮したきめ細かな備蓄が評価され、2021年には東京都のモデル企業に。同社の取り組みを紹介します。
2023/01/29
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年1月24日配信アーカイブ】
【1月24日配信で取り上げた話題】最強寒波への備え
2023/01/24
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年1月17日配信アーカイブ】
【1月17日配信で取り上げた話題】防災心理を学ぶゼミ生が制作した企業の防災マニュアル/コロナ発生から3年 企業の初動対応を振り返る
2023/01/24
-
BCPと助け合える関係が機能した災害復旧活動
2019年の台風19号でグループ含め3工場が壊滅的被害を受けたカイシン工業は、経営トップが「全力復旧」の方針を発表すると各工場が即座に活動を開始。取引先や協力会社の支援を受けて設備の交換を迷いなく進めるとともに、代替生産によって早期に出荷を再開しました。同社のBCPと助け合える関係づくりを紹介します。
2023/01/19
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方