2017/03/21
災害から命を守れ ~市民・従業員のためのファーストレスポンダー教育~
前回の連載でも少し触れたが、救助者の安全はもちろんのこと、これらのPPEは救助者としての存在を示し、生存者からの協力と理解を得る上でも重要な役割を果たしている。くどいようだがCFRまたはCERTのメンバーとして現場で活動するには最低限のPPEを装備しなければならない。
知識もなく、訓練(練習)の経験もない、PPEも準備していない人は危険な現場で災害対応(初動における初期消火活動、災害救護活動、簡易捜索救助活動など)に関わるべきでない。安全な場所で自分にできることだけをした方が良い。人を助けたいと思う善の心だけでは人は助けられないということを肝に銘じて欲しい。
その他、個人用保護具以外にCFRまたはCERTメンバーが準備するべき装備品を一覧表にしたので参考にしてもらいたい。

なぜこれらの資機材が必要になってくるかは次章以降、「火災防護」「災害救護」「簡易捜索救助」等の本編内で徐々に明らかにしていくが、個人用保護具(PPE)に関しては、改めて独立した章として、本Web版に展開する予定である。
【CFRまたはCERTとしての現場マネジメント】
CFRまたはCERTが組織として災害現場において機能的に活動するためには、次のようなプロトコール(手順)が必要となる:
・ スパン・オブ・コントロール(監督限界):一人の監督者に対し5人以下のメンバーを置く原則に基づきチームを編成する。
・ 使用する用語を平易なものにし効果的なコミュニケーションを図り理解を共有する。
・ 無線やトランシーバーなどの通信機器で、チーム間あるいはプロのレスポンダーとの間で効果的なコミュニケーションを図る。
・ 戦略的ゴール、戦術目的、補足的活動等の行動計画を統合化する。
・ 包括的資源管理により現場に必要な資源(人・モノ)を迅速に配備する。
・ 常にチームメンバーの人員掌握ができる体制をとる。
めまぐるしく状況が変化する災害現場においてCFRまたはCERTのチームメンバーは臨機応変に柔軟な体制で対応しなければならない。チームリーダーとメンバーは現場の状況を評価し、戦略を立て、チームを配備し、活動結果を必ず書面にする。CFRまたはCERTによる災害現場での活動基準は救助者の安全が第一であると共に、対応する人数が多ければ多いほど活動の成果は上がるのだが、前述の監督限界とチームメンバーの人員掌握体制を整えておかなければならない。
■インシデント・コマンド・システム(ICS)
インシデント・コマンド・システム(以下、ICS)とは、米国で開発された災害現場・事故現場などにおける標準化されたマネジメント・システムのことで、指揮命令系統や管理手法を標準化し、組織間連携・地域間連携を可能にする仕組み(ルール)である。1970年代に多発した森林火災の教訓により開発され、徐々に他の行政機関などで利用が拡大し、デファクトスタンダードになった。
2003年に制定された米国の国家事態管理システム(NIMS:National Incident Management System)では、米国で発生するあらゆる緊急災害・緊急事態にICSを適用することが定められており、災害・事件の種類を問わず、日常の事件・事故からテロ事件・ハリケーン災害などの危機管理まで、あらゆる緊急事態対応で使用されている(コンサートやフェスティバルなどの大規模なイベントでも活用されている)。
当然、欧米の公設レスポンダーはこの仕組みを活用し災害対応に当たっているが、前回の連載でも少し触れたように、ICSの原則では最初に現場に到着した第一現着隊の救助者が現場指揮官(チームリーダー)として現場の指揮を執ることになるため、CFRまたはCERTのメンバー(もしかしたら読者のあなた)もICSの仕組みを理解し、チームビルディングに取り入れてみたらどうだろうか。
現在、日本においては残念ながらICSの概念を取り入れている組織は少なく、学識者の中には、「日本にはなじまないシステムである」と主張している人もいる(現場活動を経験したことのない人の主張でしかないと筆者は思っている)。しかし2011年11月には、世界のディファクトスタンダードであるICSをモデルに国際標準化機構が危機対応システムのISO22320を発行し、さらに2013年10月には日本工業規格化(JISQ22320)されている。
これに伴い、国立研究開発法人 防災科学技術研究所の林春男理事長が中心となり「ICS推進研究会」を発足させ、2020年の東京オリンピックを目指したICS推進普及ロードマップが動き出している。
また、昨年末から今年にかけて一部大手企業の中でも、大切な社員の命を守るために、BCPに機動力を持たせ、会社の災害対応能力を向上する目的でICSの概念を取り入れた訓練を始めている。
(詳しい訓練の内容に関しては、(株)日本防災デザインのウェブサイトよりお問合せ下さい:http://jerd.co.jp/contact/)
災害から命を守れ ~市民・従業員のためのファーストレスポンダー教育~の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方