2012/01/25
事例から学ぶ
生協(コープ/COOP)の宅配システムで、組合員への個別宅配事業を行っている株式会社ロジカル(東京都足立区、杉山久資社長)はこのほど、同社初となるBCP(事業継続計画)を完成させた。配達中に大地震に襲われても「まず、配送担当者の生命、そして企業の“信用”を守る」(杉山久資社長)ことが目標。中小企業としてコストや手間がかけられない状況の中、短期間で2回の実動訓練を実施し、運転中でも確実に安全を確保するためのポイントを洗い出し、誰でも分かりやすいA4サイズ1枚の概要書にまとめた。
同社はパルシステム生活協同組合連合会の「生活配送」(個別宅配)事業を請け負う。社員数450人、配送用のトラック380台(リース)で、月曜日から金曜日までの週5日、「パルシステム」の組合員宅に生鮮食料品や日用品などを届けている。
BCP策定のきっかけは11年2月に発生したニュージーランド地震。災害対策の必要性を強く感じた杉山社長は、取締役で運輸事業部長の久保裕介氏にBCP策定を指示した。
実は、同社では3年ほど前にも1度、防災対応マニュアルを作成したことがある。しかし、そのこと自体が社内ではほとんど忘れ去られていたという。杉山社長は「マニュアルをつくっただけではダメだと実感した」と振り返る。BCP策定の指示を受けた久保氏は、大企業の事例を研究するなど試行錯誤を重ね、たたき台を作成。皮肉にも、3月11日に幹部社員が集まる定例会議でその内容を報告した直後に、東日本大震災が発生した。
本社事務所(ビル3階)での大きな被害は無かったものの、配達中の380人の従業員の安否確認が急務となった。ちょうど幹部会議で各事業所長が全員集合していたため、本社内にすぐさま対策本部を立ちあげ安否確認を開始した。しかし携帯電話や携帯メールでの連絡はなかなか通じず、全員の安全を確認し終えたのは夜9時半のことだった。
幸い、けが人はいなかったが、多くの時間を要したことから、仮に首都直下地震が発生した場合は、安全を確保できるのかという不安が、杉山社長と久保氏の脳裏をよぎった。
■実効性あるBCPへ
3.11後、同社のBCPは、それ以上の手がつけられなくなっていた。「何が重要なのか整理できなくなっていた」と杉山社長は語る。
そんな時、取引先である災害対策担当者から、同社のBCPの訓練について話を聞く機会が訪れた。担当者によると、訓練に参加するのは、パルシステムと物流センター間の基幹配送を受け持つ事業者だけ。組合員に直接商品を届ける個別宅配業者は入っておらず、ちょうどそのことを訓練の指導にあった専門家から指摘されたという。「常に消費者と接している我々のBCPの必要性が確信できた瞬間だった」と杉山社長は振り返る。
訓練の指導にあった専門家とは、元東京都総合防災部情報統括担当課長で、現在、危機管理勉強会齋藤塾を主宰する齋藤實氏。杉山社長はパルシステムから齋藤氏を紹介してもらい、BCP構築の支援を願い出た。斎藤氏は、中小企業がBCPを策定するには、時間とコストがかけられないことを考慮し、わずか数回の研修と実地訓練により、実効性のあるBCPを策定することを提案し、4カ月でBCPを作り上げるというプロジェクトがスタートした。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
津波による壊滅的被害から10年
宮城県名取市で、津波により工場が壊滅的な被害に遭いながらも、被災1週間後から事業を再開させた廃油リサイクル業者のオイルプラントナトリを訪ねた。同社は、東日本大震災の直前2011年1月にBCPを策定した。津波被害は想定していなかったものの、工場にいた武田洋一社長と星野豊常務の適切な指示により全員が即座に避難し、一人も犠牲者を出さなかった。震災から約1週間後には自社の復旧作業に取り掛かり、あらかじめ決めていたBCPに基づき優先業務を復旧させた。現在のBCPへの取り組みを星野常務に聞いた。
2021/01/21
-
台湾をめぐる米中の紛争リスクが高まる
米国のシンクタンクCouncil on Foreign Relations(CFR)は、2021年に世界中で潜在的な紛争が起こる可能性を予測する最新の報告書を公表した。報告書は、台湾問題における米国と中国の深刻な危機を、世界の潜在的な紛争の最高レベルとして初めて特定した。
2021/01/20
-
これからの国土づくり 「構想力」と「創意工夫」で
政府の復興構想会議のメンバーとして東北の被災地を訪ね、地域の再生や強靭な国土づくりに多くの提言を行った東京大学名誉教授の御厨貴氏は当時、これからの日本の行方を「戦後が終わり、災後が始まる」と表現しました。あれから10年、社会はどう変わったのか。いつか再び起こる巨大地震をめぐり、政治・行政システムや技術環境、市民の生活や仕事はどう進歩したのか。これまでを振り返ってもらいながら、現在の課題、今後の展望を語ってもらいました。
2021/01/14