「最新の火災防御手法の動向と消火の科学についてなど」は以前に紹介したが、今回は、「火災防御訓練の効果的なシナリオ作りとゴール設定」をご紹介させていただく。

1.火災防御訓練の効果的なシナリオ作りとゴール設定
この目的は基本的な火災防御訓練に必要なコンセプトを相互確認後、机上・図上訓練に生かすための現実的な火災防御のシナリオ作成を、親シナリオと子シナリオ(付加想定)に分けて行い、最終的に班ごとに作成したシナリオと付加想定を発表・評価し、参加者全員がすべての成果物を各所属先に持ち帰り、訓練に生かすことである。

できる限り具体的に災害概要をわかりやすくかつイメージ醸成を促すことが目的であり、親シナリオを作成するプロセスで、訓練参加者は、様々な火災防御活動上のリスクや各隊の課題や活動の選択、安全管理等を予知・予測・予見できる。

親シナリオに災害概要の全てを書く必要はない。ヒント程度でいい。本当の災害発生時は部分的な未確認情報に対して初動対応が始まる。全ての情報を得ることはできないのだ。

ただ重要なことは下記の項目を洗い出しておくことで、子シナリオ(付加想定)の前提条件が明確になってくる。

・災害情報(火災発生場所、火点情報、燃えている状態等)
・規模(周囲への影響、損害、要救助者及び被災者数予測)
・日付(祝日、土日、平日)
・季節(発生場所における特有の季節情報)
・気象(時季的情報、気象予報)
・時間帯(深夜が一番難しいため、最初は日中から始める)
・風向き(風向、風速、風力)
・周囲の環境(地下水、河川、海、大気等、公共施設、住宅地、学校)
・要救助者(逃げ遅れ者の数、傷病程度、施設関係者、来訪者等)
・場所等(現存施設の実際の特定名称、動線、発災後の物理的状況等)
・自主防災組織や消防団の体制(土日、祝日、夜間は対応人数が極端に少ない)
・敷地内環境(アクセス条件、警備体制、道路等公共改修工事等)
 など

子シナリオ(付加想定)は訓練参加者を本気にさせ、状況予測による具体的な対応を導き出す素因子。多ければ多いほど、参加者の訓練成果に繋がるが、火災防御活動の優先順位や現場の特性など、それぞれの付加想定から何を導くかがシナリオ作成者のセンスが生かされる。

2.災害素因子=子シナリオから初動対応へ誘導する段階的活動とゴール設定までのヒント
1時間のワークで各役割(班)別に約30の子シナリオを作っておくことを目安にする。実際の現場状況に即したものを作る必要がある。

・先着隊の役割(到着場所、水利選択、消防設備&器具の選別、隊員の配置等)
・対応優先順位(生命、身体、財産、危険、環境汚染、援助要請、警戒区域設定等)
・指揮命令体系(災害急性期〜鎮静期まで段階的に)
・個人装備(防護服、活動資機材等の選定と着装場所、活動&退避時間の判断、交替)
・物質からの隔離と現場管理(自主防火組織や消防団の活動管理、隔離方法や距離)
・防護(地域社会への避難喚起、物理的防護手段、他機関による防護支援)
・除染(除染手法、除染する場所やタイミング、除染水等の廃棄手段等)
・救助(被災者員が自力避難するための遠隔支援、他機関との連携、自己完結は困難)
・救急(現場応急処置、搬送手段、搬送先病院の選定等)
・2次災害(駐車車両等への引火、隊員の感電、防御&退避判断ミス、エア切れ等)
・放火や保険金詐欺の現場保全(放火の見分け方、現場保存と防御の同時進行等)
・復旧と終結(破損装備調査と部品調達、資機材撤収要領)
・メディア対応(記者発表内容整理など)

●親シナリオの例
2019年1月2日、午前2時22分、静岡市清水区八木間町、サニーハウス102号室にて、ストーブに灯油を20Lポリタンクから給油中、火に引火したと思われる火災発生。現在、1階102号室から2階の202号室に延焼中。要救助者は102号室の80歳男性が全身やけど、202号室には耳の聞こえないご夫婦と子供2人がいる模様。

上記のように、関係者からの情報は最低限の内容で有り、出動途上に追加情報を得ることもある。最初から現場活動に必要な事細かな情報は入ってこないため、活動隊員自らが、音声による入電情報から、自分たちが現場に到着した際の活動内容を予測しておく必要がある。

3.火災防御活動のポイントを抑える
親シナリオが決まった時点で、グループ分けされている訓練参加者それぞれの目的と役割を把握し、書き出してみる。

一般木造住宅火災の出動隊:現場到着時の目的と役割
ポンプ車先着隊:_______________________________________
ポンプ車後着隊:_______________________________________
救急隊: _______________________________________________
指揮隊: _______________________________________________
はしご隊: _____________________________________________
消防団: _______________________________________________
警察: _______________________________________________
その他:_______________________

現場到着時の目的と役割は、文章にする必要はなく、キーワードだけでも良い。
まずは、2分ほど自分で考えて書き出し、その後、3分程度、相互に自分たちの活動を把握し、ある程度の火災防御のタイムラインを予測しておく。

4.子シナリオの例(付加想定)
子シナリオは、活動上の気づきを与える情報でもある。子シナリオを工夫することで、活動隊員達の現場対応能力が、大幅に向上することが期待できる。

・現場前面道路はポンプ車1台がギリギリ通れるほどの道路狭隘地区。
・独居老人の放火による自殺の可能性もあるという情報が入りました。
・アパートの他の部屋の住人の安否は不明。ほとんどは外国人居住者。
・火点壁外側の予備燃料と車庫の車に延焼し、2階と隣に延焼拡大中。
・テレビ局が現場取材で現場消防士の話を聞きたいそうです。
・近くの高齢者施設職員が避難した方がいいか?聞いてきています。
・近所の家から、子供達が黒煙を怖がっているとの通報あり。
・隊員がエア切れで、火災建物屋内で放水作業中に倒れました。
・自主防火組織の消火班2人が、活動の指示待ち状態です。
・あと10分ほどで、雷を伴う大雨になる天気予報が発令されました。
・初期消火を行った人が有毒ガス吸気による意識障害があるそうです。
・火災室隣(不在)で犬と猫と小鳥が逃げ遅れているという情報有り。
・ポンプ車の後部から、ホース2本と筒先2本が盗まれたようです。
・火点室内には家具が全くなく、空き室であった可能性が高い。
・周囲では多数の野次馬が、スマホで消防隊の活動を撮影しています。
・2階に上る階段側に火炎が吹き出している状態。
 など

5.火災防御シナリオのゴール設定

・シナリオ訓練によって、与える気づき、防御の基本、適正な発話による指揮命令等
・配慮者優先順位等、現場における救助トリアージでの要救助者の全員救助。
・的確な消火戦術指示により、現場到着から、15分以内に火災鎮滅させる。
・消防隊員の負傷者、野次馬の怪我、現場関係者や住人の2次災害防止。
・泡消火剤を使った簡単な消火方法の開発等、新しい消火方法発明のきっかけ作り。
・シナリオ作成過程における現場状況予測と危険予知、指揮判断、防御手順等。
・現場コントロールにおける手順と方法。安全管理と2次災害の予防。
・発話内容に伴う時系列における活動予測と繰り返しによる発話要領の練習。
・現場到着時の目的と役割の確認。指示のタイミングと安全の確認要領など。
・消防隊員の負傷など、至急報が入ったときの冷静な指示と対応手順の確認。
・事件性のある現場での現場保存と撮影による状況証拠の確保や火災原因調査協力。
・最大限の被災者の財産保護やペット等の生命救助手順、対応と引き渡し手順。
・風力や気圧、気象情報から現場活動の状況変化を予測し、指示する。
・現場到着から引き上げまでの活動プロセスとポイントを参加者全員が抑える。
・小隊長、中隊長の状況判断力や現場指揮能力の強化。
・現場活動の安全、迅速、選択の可視化。
・各隊の活動に必要な情報の提供と共有。
・各隊員の火災現場対応能力の強化。
 など

ここまでの状況予測型火災防御訓練を繁華街、簡易宿泊所、商店街、一般住宅、ホテル、工場、ビルなど対象物ごとにシナリオを変えて、ゴール設定を工夫し、何度も繰り返すことで実践的な火災防御訓練のカリキュラムが次々に形になり、後輩隊員に手渡すことが出来る。

できれば、親シナリオを想定した、実火災訓練も訓練施設等を使ってできるかもしれない。

もし消防学校での教養訓練として受講されたい方は、下記へご連絡いただければ、具体的な実施内容の詳細をお伝えさせていただく。

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
https://irescue.jp
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