2019/02/19
防災・危機管理ニュース
リスク対策.comでは、1年間(約50回)にわたってアメリカの危機管理に関する貴重な著作である『真実のとき(Moment of Truth)』を翻訳して掲載します。連載は3月4日(月)にスタート。以降、2週間に1回のペースで掲載していく予定です。
著者のケリー・マッキニー氏はニューヨーク市緊急事態管理局の副局長、アメリカ赤十字の災害対応最高責任者、緊急事態管理に関するNPOの創立者兼代表者などを歴任し、現在はニューヨーク市立大学の医療センターで緊急事態管理と企業レジリエンスの上席部長を務める危機管理の第一人者です。
これはマッキニー氏が数多くの大災害対応の修羅場で陣頭指揮をしてきた長年の経験から紡ぎ出された危機管理の物語です。
読者はまずプロローグの緻密で迫力のある物語に圧倒されるでしょう。某国のポラリス潜水艦が米本土の湾岸に現れニューヨークのタイムズスクエアに向けて核ミサイルを発射したという“想像上”の危機です。9.11同時多発テロの記事を読んでいるのではないか、そして私たちにとっては広島・長崎がそうだったのではないかと思わせるような叙述です。
もちろん核攻撃はマッキニー氏が関わった大災害の中にはないわけですが、米国には30の州と郡からなる核対応計画をつくるための会議があり、マッキニー氏は6年間にわたってその会議のニューヨーク市代表でした。核爆発は“すべての災害の母”とのことであり、アメリカ人が核の脅威をいかに切実なものと捉えているかということの一端ではないかと思われます。
いずれにしても本書のメッセージは「目をあけて災害の脅威を見よう。災害対応の情報を共有しよう。そして準備をしよう」というものです。本書では「希望の壁」という表現が出てきます。希望の壁によって私たちの知覚は遮られる、そして「大丈夫だ」という集団的な楽観に囚われて、深刻な脅威から目を背けてしまうということです。
たしかに首都直下地震や南海トラフ地震が本当に来ると思ったら私たちの日々の生活はどうなるでしょうか。希望は私たちの生きる力です。「そんなことにはならないだろう」あるいは「なってほしくない」という希望があるから毎日の仕事や生活に専念することができるのですが、その希望が壁になるというのです。
本書はプロローグとエピローグの他に全10章からなるものです。各章には興味深いタイトルが付されています。『真実のとき』は第3章のタイトルでもありますが、何を意味するのでしょうか? 第4章は「パラレルな宇宙」、第5章は「全米災害システムの神話」、第6章は「グレート・マシーン」です。パラレルな宇宙、神話、グレート・マシーンとは何のことでしょう。ぜひ本文をお読みいただきたいと思います。
マッキニー氏は「アメリカ人もアメリカという国も大災害に対する準備はできていない」と考えています。そしてなぜそうなのか、どのようにしてそうなってしまったのかを説明しています。しかしニューヨーク市については、過去20年間に9.11テロ以外にも熱波・雪嵐・竜巻・ハリケーン・地震などの猛襲があり、その中で鍛え上げられた災害対応計画がある、それは連邦と州、さらには世界の模範になるものであるとのことです。
本書は危機管理とは何か、私たちは何をすべきかを考える上で大いに参考となるでしょう。政府・自治体・自衛隊・消防・警察・医療・企業・学校・研究機関の関係者、そしてすべての人に一読をお勧めします。
翻訳は、わたくし専修大学教授の杉野文俊と、リスク対策.comアドバイザーでISOのBCP関連委員会の委員を長年務めてきた岡部紳一が担当します。
著者 ケリー・マッキニー氏について
文責:杉野文俊
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