第14回 食品製造業の事業継続(2)
小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
2016/08/19
業種別BCPのあり方
小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
本稿では、前号に続き、食品製造業における事業継続計画の策定にあたり、考えておきたいポイントを紹介する。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年3月25日号(Vol.47)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年8月19日)
リスクアセスメントの実施
日本企業が策定する事業継続計画には、地震など自然災害への対応のみを想定しているものが多く見られる。日本の自然災害リスク、特に地震リスクは大きく、行政も地震対策を強く後押ししている。このため、日本では、事業継続計画=地震対策という認識が広がっており、本来、事業継続計画策定に先立って行われるリスクアセスメントに関する記述を省いている解説書も存在する。
しかし、この対応は適切なものとはいえず、特に食品製造業においてはリスクアセスメントの必要性が高いと考える。食品製造業にとって、地震のような自然災害リスクがもっとも事業の存続を危うくするものとは言い切れないからである。
つまり、食品製造業の場合、自然災害ではなくても事業中断に追い込まれるような事象がいくつか存在する。全産業に共通する情報システム停止に加え、業種特有の問題として食品事故、風評被害といった事象も事業中断に直結するが、このことに対する社内関係者の理解度はさまざまであることが少なくない。
ここでいうリスクアセスメントとは、労働安全衛生管理体制の中で求められるリスクアセスメントとは異なり、事業活動上のリスクの洗い出し、評価、対策の検討といった手順による全社的な取り組みである。この取り組みには一定の手数を要するが、事業継続計画の策定に先立ち、このプロセスを踏むことで、会社を取り巻く諸リスクに関する基本的な考え方について、一定の社内合意を形成することが期待できる。
品質保証部門の参画が重要
食品製造業の緊急事態対応に関しては、食品事故の発生を想定した対応計画が存在し、その中には対策本部の設置なども内容に含まれていることが多い。事業継続計画の策定にあたってはそれらの内容と整合性を取ることが重要である。
特に、品質保証部門の参画を制度上担保しておくことが重要であり、事業継続計画策定の段階から品質保証部門を参画させることが望ましい。これは、食品製造業における緊急事態対応にあたって、最終的に「品質に影響しうるリスクをどこまで許容するか」は、品質保証部門の助言に基づき、経営層が判断することになるからである。
具体例として、大規模停電が発生し、工場内の冷蔵・冷凍システムがすべて停止した事例で説明する。このような場合、製造部門ではいったん製造を中止し、給電が再開した段階で、製造設備の点検と再稼働に向けたプロセスを進めることになる。その際、問題になるのは原材料や仕掛品の取扱いである。冷蔵・冷凍システムの停止による影響に曝された原材料や仕掛品は廃棄するというシンプルなルールは現実的ではない。食品の原材料には、塩や砂糖のように相当過酷な保管条件でも耐えられるものもあれば、若干の温度変化でも品質に大きく影響が生じるものもあり、保管条件が多岐にわたるからである。
加えて、冷凍庫に入っている原材料については、相当長時間の停電であっても、ドアの開閉状況等によって、品質への影響が大きく変化する。実際、東日本大震災で被災した倉庫業の冷凍物流センターでは、数日以上の停電が生じたが、給電再開までの対応が適切であったため、センターの冷凍倉庫に保管されていた原材料の品質には影響が生じなかったという事例が報告されている。
結局、緊急事態における品質に影響を与える要因は千差万別であり、保管されている原材料・仕掛品への影響(温度、湿度など)をどこまで許容するかは、具体的な状況に合わせて専門の知識と技量を身に着けたスタッフが関与する形で判断しなければならない。停電の影響を受けた原材料の取扱いを現場に委ねたことにより、大規模な食品事故の発生を招いた大手乳業メーカーの事例は、食品製造業における緊急事態対応に品質保証部門の関与を確保することの重要性を示す事例の1つである。
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