給責任の完遂に向けた対策
以前、大規模災害時に、製パン業の配送車が、それ以上移動できないため、周りのドライバーにパンを配ったというニュースが流れた。この製パン会社では、ドライバーに対して、災害等により通常の配送が困難になり、賞味期限が切迫してきた場合には、ドライバーの判断で周囲に製品を配布してよいという権限を与えているからできることであるとも報じられた。 

他の食品製造業においても、自社事業所が被災した場合に、炊き出しを考えたいという意見を聞くことがある。これ自体は社会に対する貢献であり、そのような対応が可能であれば、検討するのもよいだろう。 

ただ、食品製造業にとって最も重要な事業継続上の課題は、自社の製品を通常のルートで供給し続けることで、供給責任を果たすことである。そのためには、自社が現に保有する生産能力を早期再開させることが第一選択となる。 

この選択を行う大前提として、建物と設備の稼働停止を防止するハード面の対策をやりきることが重要である。可能であれば、日本国内でも東西など複数の製造ラインを保有していることが望ましいものの、コスト面の要求などにより工場ごとに生産アイテムを集約しており、特定の工場の稼働が停止した場合、当該製品の製造は不可能になる企業も珍しくない。このような企業においては、工場の稼働停止を防ぐ対策に経営資源を注力することの重要性は特に高い。 

ただ、自社の製品とほぼ同様の食味と品質が確保されていることを日常的に確認している事業者が国内外に存在するのであれば、その事業者からの調達により代替することは選択肢に入ってくる。 

東日本大震災の際、ある清涼飲料水メーカーは、米国や大韓民国で製造している水の緊急輸入を実現したが、これは、この会社が日常的に全世界的な製造及び品質管理体制を完備しているからこそ実現できた対策である。このように、大規模な事業者であれば、海外市場の開拓や技術供与などを通じて、緊急事態に代替供給先となる事業体を整備し、供給責任を完遂する対策も選択肢に入ってくることになる。

訓練と教育の重要性 
食品製造業の製造現場は、多くの場合、アルバイト・パートのような非正規労働者によって担われていることがほとんどである。非正規労働者といっても、身に着けた技量のレベルは非常に高く、容易に代替することができるようなものではないことが多い。 

そうであれば、事業継続を実現するためには、これら工場の製造現場を担う従業員に対しても、十分な訓練と教育を行っておく必要がある。特に、火災や爆発、地震などの自然災害が発生した場合に、どのように身を守り、どこから避難するかは、実働訓練を通じて、徹底的に身に着けてもらう必要がある。 

消防計画に基づく防災訓練は、得てして軽視されがちであるが、せっかく実動訓練を行うのであれば、このような背景を踏まえ、十分な準備を経て、取り組むべきである。 

また、上記の事情を踏まえれば、製造現場における安否確認については、実働訓練を行っておくことが重要だと考える。

東日本大震災より前の段階では、製造現場の従業員まで安否確認の対象にはならないのではないかという意見が寄せられることもあった。しかし、実際に大規模な被害をもたらす事象が発生すれば、正規、非正規を問わず、全従業員の安否確認をしなければならないのは、東日本大震災が明らかにしたことである。

おわりに 
食品製造業は、小規模事業者も多く、対応の余力がないという声を聴くことがある。 

事業継続計画の策定は、緊急事態の事業への影響をなくすわけではなく、また、そのために行うものでもない。目指すべきは、緊急事態が発生した場合に、縮小あるいは中止する業務を明確にし、当該業務に従事する従業員を緊急事態対応に従事させるという社内での共通認識を醸成し、継続する業務を明確にすることである。対応の余力がないのであれば、緊急時に取り組むべき事柄はなおさら最低限に絞り込まなければならないのである。 

この対応を明確にしておくことで、想定外の事象が発生した場合でも、経営層が的確に判断し、自社の経営資源を動員して対応にあたることができるようになる。 

一社でも多くの食品製造業が事業継続計画の策定に取り組むことを願ってやまない。

(了)