ビジネスインパクト分析による業務の絞り込み 
ビジネスインパクト分析に基づく業務の絞り込みは、事業継続を具体的に検討するうえでの最も重要な技術であるといっても過言ではないが、食品製造業における事業継続計画の策定にあたっては、前号の記事に示した論文の結論通り、業務の絞り込みだけではなく、商品も絞り込みを行うことが有益である。 

仮に「御茶ノ水の炭酸水」という商品があり、190ミリリットル缶、350ミリリットル缶、500ミリペットボトル、1リットルペットボトルの4つの容器で販売されているうえ、普通の炭酸水に加え、レモン風味、オレンジ風味といったバリエーションがラインアップされているとする。これらすべてを通常通り製造しようとするのは現実的ではない。販売数量や過去の緊急事態における市場動向の変動を踏まえ、製品ごとの優先順位をつけておく必要がある。ある製品が売上比率に占める割合は、各社によって異なるが、特に食品製造業においては、もっともよく売れている製品であっても数%に満たないことも珍しくない。
他の製造業では、製品ごとの優先順位について特段の議論をしなくても共通認識があることがあるが、食品製造業においては、経営として意思決定しておくべき課題になる。 

例えば、ある調味料メーカーでは、各種調味料を家庭用と業務用で分けて製造しており、製品アイテム数は数千を数える。この会社のBCPにおいて、緊急時に最優先となるのは、炊き出しなどにも使いやすい鍋料理向けの調味料であり、しかも通常よく売れる小容量のものよりも、大容量の家庭用製品を優先し、次に、工場の稼働率向上を目的に受託している外食企業からの仕様書発注による調味料の製造を優先することを決めている。これは、緊急事態における市場動向の変化と競合他社との競争を考慮し、可能な限り短時間に生産量を最大にするため、各種シミュレーションを踏まえて決定されたものである。

緊急事態における市場ニーズの変化
主に過去の自然災害における消費者の購買行動を分析することで、緊急事態における市場ニーズの変化はおおむね特定できる。

発災直後は、水にも熱源にも事欠くことから、そのままですぐに食べられるものにニーズが集中する。菓子パン、総菜パンの販売量は平日の10倍以上となったという報告もある。即席めんは、プライベートブランドよりもナショナルブランドの方がよく売れている。ゼリーやプレーン以外のヨーグルト、乳酸菌飲料も需要が高まるとの報告がある。 

一方で、被災地以外では、缶詰などの保存がきく食料の需要が高まる。災害報道が消費者心理に与える影響が背景にあると考えられる。 

発災4日目以降になると、徐々に停電の範囲が縮小するものの、地下の管の修繕が必要になる水道の供給は中断している地域が多くなる。このような場合、温かいものを食べたいというニーズを背景に、ピラフ、焼きおにぎり、ピザといったスナック系冷凍食品、カップスープなどの食品や、炊き出しに使用される調味料などの需要が高まる。 

炊き出しというとカレーやシチューというイメージがあるが、実はこれら脂分を多く含み、かつ粘度が高い食事は、調理後の処理が大変で、炊き出しには向かない。できれば、豚汁、ちゃんこ鍋のようなより水分の多い料理の方が望ましい。 

発災7日目以降になると、菓子パンや総菜パンは、飽きがくることもあり、需要が減退する。 製品の優先順位づけにあたっては、このような市場の反応を踏まえ、消費者ニーズと自社の製品の組み合わせを検討しておくことが望ましい。発災直後、小売業のバイヤーは何でもいいからということで製品を確保しようとするが、やはり売れないものよりは売れるものを可能な限り供給することが食品製造業の使命であろうと考える。