2019/03/06
講演録

2011年3月11日の東日本大震災で、福島第一原子力発電所と同様に地震・津波の被害を受けながらも、炉心損傷に至ることなく全号機の冷温停止を達成した福島第二原子力発電所。現場指揮にあたったのが当時所長だった増田尚宏氏だ(現日本原燃株式会社 社長)。危機的な状況の中でも落ち着いて的確に現場をまとめあげたリーダーシップは海外でも評価され、ハーバード・ビジネス・スクールの授業でも取り上げられているという。その増田氏が当時を振り返った。
最初に、福島第一・第二原子力発電所が、地震と津波によって大きな事故を起こし、地元の方々をはじめ、多くの方に多大なご迷惑をおかけしてしまいましたことに改めて心からお詫び申しあげます。本当に申しわけございませんでした。
私は当時、福島第二原子力発電所の所長をしておりまして、東日本大震災後、福島第二の対応が落ち着いた後は、事故を起こしてしまった福島第一プラントの収束と廃炉作業にあたっておりました。2018年4月から東京電力(東京電力ホールディングス株式会社)の副社長としてオリンピックの統括とか、オリンピックに向けた危機管理を担当し、現在は、日本原燃株式会社で特別顧問という立場になっています(2018年11月講演時)。
福島第一・第二原子力発電所は、福島県の浜通りという海辺の地域に、12キロ程度、距離が離れて建てられていて、そこから東京に電気を送っていました。東日本大震災では、福島第一、第二とも、地震ではしっかり運転が止まったわけですが、残念ながら津波によって制御機能を失ってしまい、その後の事故を引き起こしてしまいました。第二原子力発電所は、何とか冷温停止にもっていくことができ事故を免れましたが、皆さんに避難していただく状況になったという意味では、本当にご迷惑をおかけしたと反省しております。
私たちの福島第二での危機を乗り越える活動というのは、ハーバード・ビジネス・スクールでも取り上げていただいています。私は電話でのインタビューを受けただけですが、アメリカから何人もの方々が話を聞きに来たので、ケーススタディーのビデオをつくりました。そのビデオの内容を紹介させていただきながら、当時の状況を説明させていただきます。
絶対現場を離れない

大地震の後に津波が来たときも、もう駄目だと思ったことは一度もありません。目の前に降りかかってくる課題を順番に片付けていったというのが正直な感想です。第二が事故を起こさなかったのは奇跡といわれることもありますが、奇跡というよりも、やるべきことをきちんとやったから結果が出たというふうに思っています。
第二では、4つある原子炉のうち3つが津波によって冷却システムを喪失し、原子炉の除熱ができないという緊急事態に陥りました。この状況下で最初に私が決心したことは、私が動揺すると、ほかの皆に悪影響が出るので、普段通りにしていようということです。それと、この席からは絶対離れないということを決めました。所員が何かを聞きたいときに、私がどこにいるのか分からないというのは最低のことだと思います。そんなことに時間を割いていてはいけません。そんな状況に対して、原子炉をコントロールする中央制御室の大半が停電していなかったことは、その後の決断にとても役立ちました。
中央制御室というのは、原子力発電所の各号機をコントロールしている場所です。そこの電気がついていて、普通に通話できて、しかもメーターが見えたのが福島第二です。福島第一はそこも含めて真っ暗になってしまって、しかもメーターも見えなくなってしまったんですね。今のまま、何もしないでいると、いつ何が起こるのかが、しっかり推測ができたということが、第一との大きな違いだったと思います。
原子力事故を防ぐ3原則は、「止める、冷やす、閉じ込める」です。福島第二では、最初に止めることには成功しましたが、冷やすための除熱機能を喪失しました。その冷却機能を復旧させるには、現場に行って損傷具合を確認する必要がありますが、安全確保を最優先にして、皆が危険にさらされるようなことは少しでも避けたいと思いました。現場に行ってみないことには対応が進まないわけですから、何とか早く行ってもらいたいわけですが、(余震が続いていたり、がれきが散乱したりしている)危ない中、皆を行かせるわけにはいかないと思いました。
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
-
-
-
組織の垣根を越えるリスクマネジメント活動
住宅建材・設備機器メーカー大手の株式会社LIXILHOUSING TECHNOLOGYは「体系化」「情報」「活動」の3軸をベースにリスクマネジメントを展開。重点活動の一つが、自然災害リスクに対する対応力向上活動です。災害による被害の最小化は住宅建材設備を供給する者の責任と位置付ける同社の取り組みを紹介します。
2023/03/19
-
コカ・コーラにおけるリスクマネジメントERMとリスク対応計画の枠組み
ザ コカ・コーラ カンパニーは、ビジネスにおいて何らかのリスクが発生し悪影響を及ぼす可能性があることを認識し、それらに対処するプロセスを展開しています。日本においても、日本コカ・コーラをはじめ全国のコカ・コーラボトラーズ各社と連携を図っています。包括的企業リスク管理(ERM)プログラムによって、ビジネスに破壊的な影響を及ぼすリスクの軽減戦略を実行すると同時に、ビジネスの機会を積極的に模索しスマートにリスクをとることを可能にしています。取り組みの内容を日本コカ・コーラ株式会社 広報・渉外&サステナビリティ推進部 リスクマネジメント&クライシスレゾリューション シニアマネジャーの清水 義之さんにご発表いただきました。2023年3月14日開催。
2023/03/16
-
-
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2023年3月14日配信アーカイブ】
【3月14日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:いよいよマスク着用ルール緩和
2023/03/14
-
ダイバーシティ&インクルージョンは足元から
日本企業が「ダイバーシティ&インクルージョン」に注目する背景には、少子高齢化のなかで労働力の確保が難しくなっている状況があります。一方、地域社会も同様の課題に直面。コミュニティーを支える人材の不足から、福祉や防災の機能不全が顕在化しています。両者が抱える課題の同時解決に必要なイノベーションを考えます。
2023/03/13
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方