人類に脅威を与える未知の病原体

20世紀末から、新興感染病と呼ばれる過去約20年の間に、それまで未知であった病原体感染による人の健康に障害を与える新たな感染症が世界中で広く出現しています。現在までにエボラ出血熱、エイズ、腸管出血性大腸菌O157、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MARS)、鳥インフルエンザ(H5N1及びH7N9)感染症等約30種以上の新たな病原体による感染症が知られています。これらの感染症は人が罹患した場合、発現する臨床症状は激烈で高い死亡率を伴うことがあります。

また再興感染病と呼ばれる、かつて存在した感染症で近年ほとんど問題とならないようになっていましたが、最近再び増加してきた感染症、あるいは将来的に再び問題となる可能性がある感染症の存在も注目されています。ペスト、ジフテリア、コレラ、サルモネラ症、劇症型A群レンサ球菌感染症、百日咳、結核、デング熱、黄熱病、狂犬病、炭疽等多数該当する感染病があります。

これら新興・再興感染症の発生地域は限定されていません。交通機関の著しく発達した今日、たとえアフリカ大陸、中東あるいは東南アジア等の開発途上国あるいは日本との交易が頻繁に行われていない、情報に乏しい国で最初に出現して流行が起きても、ごく短い期間で国内に侵入する危険性が生じています。抗生物質や抗生剤が効かない!

さらに、現在大変深刻な状況が生まれつつあります。例えば、以前は、細菌性および寄生虫性疾病に対して高い効果を示した抗生物質、抗菌剤等の治療効果が必ずしも示されなくなっている事例が増えているのです。この現象は、当初抗生物質、抗菌剤などが頻繁に用いられてきた米国や日本で顕著でしたが、現在では地球上ほとんどの地域で起きています。すなわち、薬剤耐性菌、特に複数の薬剤に耐性を示す多剤耐性菌の増加が、世界的に見ても著しくなっているのです。これは大変大きな問題です。実際に、結核等の細菌性疾病の治療が以前に比べてより難しくなっていることは否めません。残念ながら、新しい抗生物質の開発は頭打ちになっており、過去10年間以上、新しい抗生物質の開発にはどこの国も成功していません。

ほとんどの新興感染症が動物由来で国を超えて拡散

これら感染症には別の特徴があります。それは、現在知られている新興感染症のほとんどは、病原体が動物から人に感染して起きる「人獣共通感染症」あるいは「動物由来感染症」と呼ばれる感染症であることです。さらに、その多くは、国を超えて感染が広範に拡散する「国際疫」あるいは「越境性感染症」です。人類に対して広範に大きな脅威を与えています。

人獣共通感染症という言葉は一般にはなじみのないものですが、下の表に示した通りその種類は非常に多く、原因となる病原体も多岐多様にわたっています。伴侶動物(ペット)として飼育している動物、私たちの身近な場所で生息している野生動物から、人が病原体の感染を受け、発病してしまう感染病が多いことをこの表は示しています。さらに、人が感染を受け発病した場合、非常に高い死亡率を示す疾病の少ないことも分かります。

写真を拡大 感染症の病原体は多種多様

重要なことは、20世紀末から出現している新興感染症の多くが人獣共通感染症であることです。これらの感染症の発生は、最初に国外で起きる場合がほとんどであることを念頭に置く必要があります。

次回から、これら感染症の実態、考えられる感染予防等紹介する予定です。

(了)