2016/09/27
事例から学ぶ
医療用医薬品の研究開発、製造、販売を手がける中外製薬。抗がん剤やバイオ医薬品などよく知られた医薬品の製造販売を手がける日本トップレベルの製薬企業だ。グループ会社を含め約7000人の従業員が国内の本社・支店や研究所、工場などの19拠点で働く。中外製薬は2011年からEHSの一本化に動き出し、現在は新しい組織体制に移行している真っ只中。同社のEHS統合を牽引するCSR推進部の環境・安全衛生グループマネジャー加藤伸明氏は「弊社には環境と安全衛生を全社的に統括している部署がありませんでした。それぞれの機能は別々の部署にあったのですが、統合すべきと感じ自ら手を挙げました」と話す。
それまで中外製薬ではEHSの管理を担当する部署は分かれていた。環境を担当していたのは社会責任推進部(現・CSR推進部)だった。製薬業界の環境への取り組みは比較的早く、中外製薬でも1996年に各事業所に環境委員会を設置した。その後、2002年にはスイスの大手製薬会社・ロシュ・グループの一員となったが、それを機に社会責任推進委員会が新設され、2003年に環境と社会責任を担当し
ていた各部を統合し、社会責任推進部の管轄になった。各事業所の環境委員会は維持されたが、社会責任推進委員会とこの環境委員会との関係性は明確に規定されていなかったという。
健康・衛生を担当していたのは人事部。従業員の健康情報が個人情報や人事情報にも関連するのが理由であった。その中には同社が力を入れる復職支援やがん治療と就労支援、また労災保険申請業務の支援までも人事部が担っていた。このようにEHSのうち環境は社会責任推進部、健康・衛生は人事部が管轄していた。
安全は工場や研究所などの各事業所が担当し、複数の事業所を束ねて本部が面倒を見ることもあった。この背景には労働安全衛生法がある。同法では事業所ごとの安全衛生委員会の設置を定めているので、業務中の事故などは各事業所の安全衛生委員会が対応にあたる。事故の原因究明や事故防止策の立案や実行もこの委員会が指揮していた。ただし、自衛消防や防災は総務系部署の役割で、訓練など
も行っていた。加藤氏は「EHSが分かれているのは、環境や安全衛生の法規制の対象とする基本単位が事業所なので、各事業所では委員会が主管となる体制になりやすく、それを統括する部署も分かれていたのではないか」と説明する。
海外企業に学ぶ
加藤氏がEHSを統合したマネジメント構築に手を挙げたのは、CSR推進部に異動する前部署で調達業務を担当し、マネジメント強化によるガバナンスの重要性を肌で感じていたからだ。加藤氏は製造委託や原材料の調達のため海外企業の工場を訪問することがあり、調査のためにヒアリングを行っていた。その際の担当者の受け答えから、本社が工場を含めた管理体制を構築し、責任を持ったガバナンスが機能している場面に出くわし感心したという。
医薬品の製造は比較的リスクが小さく、中外製薬の工場や研究所でも死亡事故の発生は極めて稀なことであった。それはリスクをうまくヘッジできていたと言えるが、マネジメントの強化で、より効果的で実効性のあるリスク対応が可能になると加藤氏は考えた。また、海外工場訪問の際、EHSを統合すべきと強く思うような課題があったという。
「例えば、ある工場で有害な気体が漏れ出し工場内に充満したとします。工場内の従業員の健康を最優先すれば、すぐに外に排気するべきです。しかし、環境や周辺住民にとって有害物質が放出されるのは受け入れられないはずで、むしろ工場内に閉じ込めるべきとなります。両者の解決策が完全にぶつかって両立は不可能となってしまいます。これは1つの例題ですが、EHSそれぞれの観点で最適な解決方法が全体として最善な方法にならないようなことは十分起こります。これまで中外はEHS各々の担当者の経験に依存している状態でした。両方を考慮に入れて対応できるようにEHSを一本化した体制構築が急務だと思いました」
加藤氏はEHSの個別マネジメントの問題点を続けて指摘する。
「複数の領域にまたがる課題もあるので、個別に管理すると現場から見れば責任部署がよくわかりません。報告書をどの部署に提出していいかもあいまい。さらに、人的リソースの無駄も生じます」
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