2019/04/12
危機管理の神髄
『灯りが消える(Lights Out)』という本で著者のテッド・コッペル氏はアメリカの高圧送電線網の重大な途絶はありうるというよりは、ありそうなのだと警告している。もし起きれば9.11はピクニックであったと思えるような大災害となるであろう。
「停電が何日間ではなく、何週間もあるいは何ヵ月間も続くことを想像したまえ
いくつもの州の数千万人という人が影響を受ける
上水も下水も流れない
冷蔵することもできない、光もない
食物と医薬品の供給は減少する
我々が依存している装置は動かなくなる
銀行は機能せず、略奪が横行する
法と秩序はかつてないほどの試練にさらされている
高層ビルの屋上の水槽は2~3日は水を出す
これを使い切れば、蛇口は乾き、トイレに水は流れない
緊急時のボトルウォーターの供給は飲用以外に使うにはあまりに乏しい
供給を補充するところはどこにもない
人間の出すゴミが数日のうちに危機的な問題となる」
―テッド・コッペル『灯りが消えるーサイバー攻撃、備えのない国、災害後の生存』
電力へのリスク
電力システムの脆弱性は人間が作り出したものだという人がいる。高度に規制された産業を緩和したのが問題だということである。話は単純であり全国高圧送電線網自体から始まる。
我々の素晴らしい全国高圧送電線網には3つの役割がある。第一は電気を作ることである。これを発電という。第二は、作られた場所から人の住む場所へ電気を移動させることである。これが送電である。第三に、電気は各戸のコンセントまで届かなければならない。これが配電である。かつては一つの会社がこの3つのことをしていた。しかし規制緩和と民営化の波が電力産業にも及び、過去20年間に両者が相まってこの3つの業態をばらばらにした。
昔は停電すればそれを元に戻すのは電力会社の仕事であった。今はなるべく安い料金の会社を探して契約する人が多い。しかしその会社もまた別の会社から電気を買っているのである。停電のときは、あなたが契約した会社は肩をすくめてサプライチェーンの上流にいる送電業者や発電業者を名指しする。その結果、電気代は低廉になったが、暗闇に取り残されるリスクはうなぎのぼりに高まる。
もう一つは、全国高圧送電線網を構成しているコンピューター系と人間系という異なるシステム間の連携の問題である。世界最悪の停電の2つである2003年の北東部大停電と同年のイタリアと近隣諸国の大停電はコミュニケーションの断絶が原因であった。両方合わせて1億人以上の人が影響を受けた。
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方