2016/05/10
室﨑先生のふぇいすぶっく
応急危険度判定についての印象というか疑問です。
私自身、応急危険度判定の制度構築にかかわった経験があり、判定士の研修の講師を長らくしてきた経験もあり、応急危険度判定の応援団のつもりでいます。にもかかわらず、苦言というか疑問を呈したくコメントします。
全国から判定士の皆さんが駆けつけていただき、立ち上がりの遅れがあったものの、応急危険度判定がしっかり行われています。ボランテイアとして協力いただいた判定士の皆さんには感謝申し上げます。
ところで、今回の判定作業を見ていて、次の2つのことが気になりました。その一つは、判定調査の空白域が少なからずあるということです。もう一つは、危険と判定され赤紙が貼られた建物が非常に多いということです。
ここでは、後者の「危険と判定された建物の多いこと」について、言及します。阪神・淡路大震災と比較して、全半壊の建物数は1/10程度であるにも拘らず、危険と判定された建物数は熊本地震の方が多いのです。2万棟近くが危険と判定されているとのことです。
どうしてこんなに危険判定が多いのかと思いました。その理由として、火山灰が堆積した地盤の特質が被災の強度を上げているため、また、震度7が2回繰り返されたためと説明できるでしょう。
ただ、それだけでは説明しきれないのです。調査の方法や基準にも原因があると思うのです。(1)大きな余震が続くという恐怖感が赤紙を増やしている、(2)調査時間が限られていて安全だという確証が得られないため「疑わしきは赤」ということで「赤紙」を貼っている、(3)判定基準がマニュアル化されすぎチェックリストの項目に少しでもヒットすれば機械的に「赤紙」を貼っている、と推測されます。
安全側に判定するということでは、緑という確証がない限り、赤また黄にするのはやむ得ないのですが、赤を張られた家の人は立ち入ることもできず、犠牲を強いられます。その犠牲のことも考えて、赤紙を貼らねばなりません。
判定士が、外観調査であっても、時間をかけプロの目をもって、マニュアルに縛られず判定するならば、調査の精度と適格性が上がり、危険でないものを危険と判定する比率がぐっと下がるはずです。
応急危険度判定の方法などを見直すとともに、被災者に寄り添う心を判定システムの中に入れこまないとといけないと感じました。
室﨑先生のふぇいすぶっくの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/12/05
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方