再び「年寄りの冷や水的なつぶやき」です。(復興計画の策定について)【熊本地震】(5月22日のFBより)

室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
2016/05/22
室﨑先生のふぇいすぶっく
室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
熊本地震についての、再び「年寄りの冷や水的なつぶやき」です。「船頭多く・・・」を避けたいので、読み飛ばしていただいて結構なのですが、こういう意見もあると心にとめていただければ幸いです。
巨大災害からの復興は、泥まみれになったキャンバスに絵を描きなおすことに通じます。泥をぬぐって真っ白なキャンバスにすることは急がねばなりません。倒壊家屋の解体や瓦礫の撤去や仮住まいの確保は、タイムラインを明確にしてやり切ることが求められます。
一方、キャンバスが白くなったら、急いで絵を描いてはなりません。名作をつくる気持ちになって、じっくり時間をかけて構想を練らなければなりません。急がばまわれで、構想をしっかり作ることができれば、その後は一気呵成に絵を描くことができます。
構想を練るプロセスと時間を大切にしてほしいのです。ところで、この構想を練るときに、心掛けてほしいことが3つあります。
その一つは、復興の主人公は被災者自身であり、被災地コミュニティだということです。被災者の思いを聞き、それを形にするよう、心がけてほしいと思います。サンフランシスコ地震のサンタクルーズの復興や中越地震での物語復興のプロセスに学ぶことをお勧めします。
この一つ目に関わって、被災者は現在、苦難と疲労の極限にあります。じっくり将来を考えるゆとりはありません。被災者が自立して未来を考えられるようになるまで、復興の結論を待つ必要があります。
二つ目は、確かに安全は必要条件で疎かにしてはいけません。ただ十分条件ではありません。安全や防災だけで、復興を考えては駄目です。安全だけで生きてゆくわけではありません。暮らしの総体や地域の未来をしっかり考えて、復興の構図を描かなければなりません。
この二つ目に関わって、熊本の素晴らしい自然との共生をいかに図るか、農業や観光をいかに発展させるか、という視点はとても大切です。危険だから集団移転という結論に飛びつく前に、みんなでどうすることがいいのかを、よく考えなければなりません。
三つ目は、行政や復興計画策定の委員会に、被災者の心や思いを届ける仕組みが欠かせないということです。そのために、中間支援組織の介在が不可欠と考えています。被災者の心や被災地の思いを代弁できる人が、復興計画委員会に参加できる、あるいは意見を提起できるようにしたい、と思っています。
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