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9.11の後、インテリジェンス・コミュニティ(政府が設置している情報機関によって組織されている機関)では攻撃が差し迫っているということが多くの人の目に明らかだった。ハリケーン・カトリーナの後、ニューオーリンズのインフラの強化が大幅に遅れていることもよく知られていた。

ナシーム・ニコラス・タレブ(ブラックスワンの著者)によれば、ブラックスワンは、きっかけとなるインシデント(出来事)、あるいは一連のインシデントの産物なのだと説明するのは、偶然にだまされているのである。事後でさえ大災害の原因を理解できると考えるのはばかげている。結局のところ科学者たちは、相当の努力をしたにも関わらず、地震やテロ攻撃のタイミングを正確に予想することはできなかった。大災害の原因を突き止めるというのは大体において後付けの試みである。

それにも関わらず科学者やメディアの評論家はこの世界で起きる全てのことには原因があるという考えをやめない。全ての原因には結果があり、結果から原因へ遡ることができると信じている。

あなたもそう思うだろう。悪いことが起きると、なぜかと問う。なぜそんなことになってしまったのか、その原因を探す。原因が分かれば、また同じことになるのを防ぐことができると考える。

ニューヨーク市の災害専門家はそれが神話であることを知っている。われわれはそれを“原因の神話”と言う。15年の歳月と特大・大小さまざまな数百という災害の後、エドワード・アロイシウス・マーフィー・ジュニア(マーフィーの法則)のように、われわれは真実を知っている。それは「何か悪いことが起き得るとすれば、それは悪いことになるだろう」ということである。

われわれはこの真実を「shit happens(最悪の事態も起きる)」という。
興味深いのは、この「shit happens」が現実に発生することに関しては、科学的な根拠があるということである。都市、重要なインフラ、さらには環境というような複雑なシステムには「shit happens」が起きるのだということを主張する理論である。デンマークの物理学者であるパー・バクが提唱したこの理論は自己組織化臨界と呼ばれる物理の特性に基づくものである。

この自己組織化臨界の理論は因果の概念を拒絶する。要は避けることのできない大災害はあらゆる複雑なシステムに埋め込まれているということである。政治システムは、まさにその性質のゆえにテロ攻撃に、金融システムは株式市場のクラッシュにつながる。電力網は10年間に、毎年千回の停電を、都市は毎年500回の洪水を経験する。例えばスリーマイル島原子力発電所の複雑なシステムを取り上げてみよう。