マニュアルよりも経験知

実施の際のやり方については、意外にも細かなマニュアルはこれまで存在しなかった。「これまでも台風などの場合には路線ごとに運休計画を立ててきた。運行管理を行っている指令所において、ある路線で運休する場合に、どういった手順を踏んでいくのか、運休から運転再開に向けてのノウハウは蓄積されている」と中條氏。つまりは路線ごとに間引き運転や全面運休についてまず判断。「アーバンネットワーク」と呼ばれる京阪神エリアの運行全体をつかさどる大阪総合指令所が各路線の状況を見て、「計画運休」にするかどうか検討する流れとなっている。

こうした中、2018年にJR西日本は「計画運休」に関する社内のガイドラインを策定した。「計画運休」が与える社会的影響や経営への影響などが大きく、社内においてこれまで蓄積されてきたノウハウを一定量は共有化し、標準化する必要性があったからだ。「計画運休」を実施する場合、気象庁やウェザーニューズ社からの気象情報を基に最接近の2日前をめどに実施するかもしれない旨を発表。前日には最終的な判断を下し、その内容を発表する。

実際にやると決めた場合、マスコミ向けの発表だけではなく、必要によっては沿線の府県や市町村にも連絡。駅では電光掲示板の他、多言語対応翻訳メガホンも用いて説明する。近年はJR西日本のサイト以外に、ツイッターなどSNSも大きな役割を果たしている。

「『計画運休』を実施する際の大阪総合指令所は本当に戦場のよう」と中條氏は説明。指令所は200~300人規模で対応にあたる。実施決定後、間引き運転から始まるが、これに伴って発生する車庫への入庫はスムーズな運転再開に向けて非常に重要な作業となってくる。また、運転再開に向けたダイヤの組み直しとシステムへの入力も労力と時間のかかる作業だ。さらに、今回策定したガイドラインには線路点検・復旧のタイムラインも記載した。