2019/09/06
日本企業が失敗する新チャイナ・リスク
■ 中国人と交わることをしない駐在員
5年ほど前に、筆者の大学の後輩が上海に事務所を持つ大手日系企業の駐在員として赴任してきたことがあります。この企業は機械製造メーカーなのですが、彼が携わったのはグループ全体の各企業を管理する部門。事務所も営業部を兼ねて、上海市内の高層オフィスビルにありました。
事務所には、スタッフが総勢50名、日本人駐在員は5名という体制で、当然のごとく初中国勤務ではあったものの彼にも役職が付き、中国人スタッフ8人を部下に持つという立場でした。
しかし初めての中国勤務、業務は日本でも行っていたことであるので精通しているとはいえ、さすがに既に何年も勤務経験のあるローカル中国人スタッフを指導できる立場ではないでしょう。よって彼は、まずはできるだけローカルスタッフと時間を共に過ごし、交流をすることから始めようと考えたようです。筆者にあいさつに来たときも、そのような自分なりの方針を語っていましたし、筆者もぜひそうすべきだとアドバイスしました。
ところが数週間後再び彼に会い一緒に食事をした時に、彼は私に不満を吐露し始めました。彼によると、彼より先に赴任してきた日本人駐在員たちは誰もローカルスタッフとは一緒に昼食を取らないというのです。ローカルスタッフには社内食堂の食券が与えられるのだが、日本人駐在員たちにはそれがなく、社内食堂で食べようにもローカルスタッフからその食券を分けてもらわないと食べられないとのこと。それにほぼ毎日、日本人たちは日本人だけで別の食堂に行って食事をするのだそうです。彼は納得できず、なぜなのかを問うたところ、「昔からそうなんだ」との回答にどうしても納得がいかないというのです。
私から「ではローカルスタッフとの交流はどう?」と尋ねても「全然進展ないです。言葉も全然上達しないし」と悲しげに答えるばかりか、「このような環境では、短い駐在期間中にどうやって中国のことを理解し、中国事業を良い方向に進めていけるだろうか。そして、中国駐在中に学んだことを日本で生かすためにここに来ているはずなのに、これでは本来の目的を達成できないのではないか。日本本社の意向が自分には理解できない。何のためにここにいるかが分からない」と語気を強めるのでした。
日本企業が失敗する新チャイナ・リスクの他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方