2019/09/24
知られていない感染病の脅威
ウエストナイル熱の発生は世界中で起きている
ウエストナイルウイルスは、最初にウイルスが発見されたアフリカのみならず、ヨーロッパ、中東、中央アジア、西アジア、北米など地球規模で広く分布しています(図1)。特に注目されているのがアメリカでの発生です。次の項で紹介しますが、1999年、ウエストナイルウイルス感染病の発生がニューヨーク市などの大西洋に面したアメリカ東海岸地域の大都会で始まりました。ウイルスは、主として鳥類によってアメリカ中央部諸州さらには太平洋に面する西部諸州にまで運ばれ、本病の発生は拡大しました。さらには、ウイルスは国境を越えて、カナダからカリブ海諸国、メキシコ、ベネズエラにまで広範に拡散しています。
注目されるのは、馬も日本脳炎ウイルスに対してと同様、ウエストナイルウイルスに対する感受性が高いことです。馬のウエストナイル熱は、モロッコ、イタリア、アメリカ、フランスなどでも流行しています。
アメリカにおけるウエストナイル熱の発生と拡散
1999年8月から、ニューヨーク市内および周辺地域で、アメリカでの初のウエストナイル熱、ウエストナイル脳炎が突然発生しましたが、同地域で本病の流行も起きたため世界に衝撃を与えました。分離されたウイルスは、1998年にイスラエルで分離されたウイルス株に類似することが、遺伝子解析から明らかになっています。
ウイルスを体内に保有していた蚊が、貨物にまぎれて飛行機の中に潜入して中東からニューヨークまで運ばれてしまったために、ウイルスが中東からアメリカに侵入したと考えられています。ウエストナイルウイルスを保有した蚊は、ニューヨークの空港に到着後飛行機内から逃げ出し、ニューヨーク市内に移動して、市内に張り巡らされている下水道に潜り込み、そこで繁殖して、ニューヨーク市内に生息している鳥類や人に、ウイルスを感染させたと考えられています。
ニューヨーク市内では62名の患者が出て、そのうち59名が入院し、7名が死亡しました。同時に、ニューヨーク市内で生息していた多数のカラスも、このウイルスに感染して死亡し、ロングアイランドでは25頭の馬がウエストナイル脳炎を発症しています。
翌年の2000年には、ウエストナイルウイルス感染病の発生は12の州に拡大し、2001年には流行はさらに27州に拡大し、南部のフロリダ州までウイルスは拡散しています。2002年には発生が一気に40州にまで及び、3775名もの患者が出て、そのうち216名が死亡しました。2003年の全米のウエストナイルウイルス感染・発病者数は約1万名に達しています。
2006年にはアメリカ全体で4269名の発病事例があり、このうち34%は重症のウエストナイル髄膜炎・脳炎病例、61%が軽症のウエストナイル熱病例と報告されています。一般的にはウエストナイル髄膜炎・脳炎罹患者の死亡率は10%とされています。アメリカでの死亡率は50歳以上で高かったといわれています。
ウエストナイルウイルスの汚染が国全体に広がってしまったアメリカでは、ウエストナイルウイルス感染病は毎年発生しています(図2)。輸血を介したウエストナイルウイルスの人への感染例の報告も出されています。
アメリカでは、アカイエカの他に13種の蚊からウエストナイルウイルスが分離されています。鳥類では、カラス、カケス類、スズメ、タカ、ハトからウイルスが分離されています。
国境を越えてカナダ、メキシコにもウイルスは拡散しました。2007年には、カナダで2000名以上の発病報告が出されています。この頃、ウイルスは北米大陸から極東ロシアにまで鳥類によって拡散した、という報道があったことを筆者は記憶しています。
日本でも、2005年にプエルトリコ、ロサンゼルスへ旅行した人が帰国後に発病し、ウエストナイル熱と診断された事例がありました。毎年多数の人が海外渡航すること、日本国内にウエストナイルウイルスを媒介できる蚊が生息していることなどを考えると、近い将来、日本でもウエストナイルウイルスが国外から侵入して、ウエストナイル熱発生が起きる危険性のあることを考えておく必要があります。
- keyword
- ウエストナイル
- ウエストナイルウイルス
- 脳炎
- 感染病
- 感染症
知られていない感染病の脅威の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方