日本にウイルスが侵入する可能性

ウエストナイルウイルスを媒介する蚊は主にイエカの仲間ですが、日本脳炎ウイルスを媒介するコガタアカイエカやヤマトヤブカなどが日本国内に生息しており、これらの蚊もウエストナイルウイルスを媒介します。本ウイルスは、カラス、スズメなどの鳥類をウイルスの増幅動物としますが、これらの野鳥は、日本の都市部に多数生息しています。

従って、ウエストナイルウイルスが日本に侵入した場合、本病の流行を引き起こす環境は、すでに整っています。さらに日本とアメリカとの頻繁な人と物の交流を考えると、日本への侵入の可能性は極めて高いと言わざるを得ません。

極東ロシアでウエストナイルウイルス感染鳥が確認された2005年当時、筆者はたまたま鳥取県衛生環境研究所に評価委員として協力していました。鳥取県は、日本海に面する他県と共同で、シベリア方面から飛来する渡り鳥により、日本国内にウエストナイルウイルスが侵入する可能性を念頭に置き、県内で死亡した野鳥や大山山麓の森林地帯などに生息する蚊からのウエストナイルウイルス検出を試みる研究を実施しました。その結果、ウエストナイルウイルスは分離されませんでしたが、日本脳炎ウイルスが多数分離されました。日本脳炎の流行が国内では起きていないのに、と日本脳炎ウイルスが密に分布していることに驚いたことを記憶しています。

このような調査は、早期に結果が出るものではなく、地味ですが、ウエストナイル熱の防疫対策を考える場合、その重要性は高く、継続される必要があると考えています。

(了)