症状

ウエストナイルウイルス感染病の潜伏期間は3〜15日です。ほとんどの場合(70〜90%)症状が出ずに終わってしまいます(不顕性感染)。発病しても、多くは急性熱性疾患で、1週間程度で回復します(ウエストナイル熱)。症状は、3〜6日間程度の発熱、頭痛、背部痛、筋肉痛、筋力低下、食欲不振などです。皮膚の発疹が約半数に認められ、リンパ節腫脹の合併症状を呈することがあります。時にデング熱に似た2峰性の発熱のパターンをとります。

重症化すると、激しい頭痛、高熱および方向感覚の欠如、まひ、昏睡、震え、けいれんなどの髄膜炎・脳炎症状が現れます。重篤な症状を示すのは、主に高齢者に見られますが、死亡率は重症患者の3〜15%です。アメリカの患者には、筋力低下を伴う脳炎が40%、脳炎が27%、無菌性髄膜炎が24%に見られたそうです。

診断

蚊の活動が活発な時期に、原因不明の急性熱性疾患で、髄膜炎、脳炎、弛緩性まひが見られるような場合は、ウエストナイルウイルス感染病が疑われます。これらの症状が認められたときには、速やかに医療機関での受診が必要になります。

海外渡航歴なども重要な診断の鍵になります。特に、海外渡航者で発熱・精神症状が認められ、ウイルス性脳炎が疑われる患者、あるいは髄液細胞増多、発熱を伴ったギランバレー症候群(両側の手や足の力が入らなくなり、しびれ感が出た後、急速に全身に広がり進行する。医薬品によっても引き起こされることがある)、非細菌性髄膜炎、あるいは急性弛緩性の麻痺を発現している患者は、本病に罹患している可能性が高いです。

診断の際に、最初に行われる検査として、血液、脳脊髄液を採取して、ウイルス遺伝子検出、ウイルス分離などの病原体診断と血清学的診断があります。これらの検査は、国内では国立感染症研究所、厚生労働省各検疫所、都道府県の衛生研究所などが実施可能です。

治療

ウエストナイルウイルス感染病発病者に対する根本的な治療法はありません。一般的には、対症療法が実施されます。

予防

人用のワクチンは開発されていませんが、動物実験では、日本脳炎ワクチン接種により感染を防御する可能性のあることを示唆する成績が出されているようです。渡航先のウエストナイルウイルス感染病の流行情報を把握しておくことは重要です。渡航先で、蚊に刺されない方策を講ずることが必要なことは言うまでもありません。また、流行地域では、野鳥などの鳥類と馬がウエストナイルウイルスに感染している危険性の高いことも留意しておく必要があります。ウエストナイルウイルス感染病流行地域においては、蚊との接触を防ぐ方策をとることが何より必要です。

また、日本のように、ウエストナイルウイルス感染病の発生していない国では、疑われる患者が見つかった場合、できるだけ早くウイルス検査を実施して診断することが、ウイルス感染の拡大を最小限に抑えることになります。地域に生息している蚊や野鳥の感染の有無の把握、特に死亡カラスのウイルス感染状況の把握は、その地域におけるウイルス侵入の有無を解明することにつながります。