2019/09/24
知られていない感染病の脅威
症状
ウエストナイルウイルス感染病の潜伏期間は3〜15日です。ほとんどの場合(70〜90%)症状が出ずに終わってしまいます(不顕性感染)。発病しても、多くは急性熱性疾患で、1週間程度で回復します(ウエストナイル熱)。症状は、3〜6日間程度の発熱、頭痛、背部痛、筋肉痛、筋力低下、食欲不振などです。皮膚の発疹が約半数に認められ、リンパ節腫脹の合併症状を呈することがあります。時にデング熱に似た2峰性の発熱のパターンをとります。
重症化すると、激しい頭痛、高熱および方向感覚の欠如、まひ、昏睡、震え、けいれんなどの髄膜炎・脳炎症状が現れます。重篤な症状を示すのは、主に高齢者に見られますが、死亡率は重症患者の3〜15%です。アメリカの患者には、筋力低下を伴う脳炎が40%、脳炎が27%、無菌性髄膜炎が24%に見られたそうです。
診断
蚊の活動が活発な時期に、原因不明の急性熱性疾患で、髄膜炎、脳炎、弛緩性まひが見られるような場合は、ウエストナイルウイルス感染病が疑われます。これらの症状が認められたときには、速やかに医療機関での受診が必要になります。
海外渡航歴なども重要な診断の鍵になります。特に、海外渡航者で発熱・精神症状が認められ、ウイルス性脳炎が疑われる患者、あるいは髄液細胞増多、発熱を伴ったギランバレー症候群(両側の手や足の力が入らなくなり、しびれ感が出た後、急速に全身に広がり進行する。医薬品によっても引き起こされることがある)、非細菌性髄膜炎、あるいは急性弛緩性の麻痺を発現している患者は、本病に罹患している可能性が高いです。
診断の際に、最初に行われる検査として、血液、脳脊髄液を採取して、ウイルス遺伝子検出、ウイルス分離などの病原体診断と血清学的診断があります。これらの検査は、国内では国立感染症研究所、厚生労働省各検疫所、都道府県の衛生研究所などが実施可能です。
治療
ウエストナイルウイルス感染病発病者に対する根本的な治療法はありません。一般的には、対症療法が実施されます。
予防
人用のワクチンは開発されていませんが、動物実験では、日本脳炎ワクチン接種により感染を防御する可能性のあることを示唆する成績が出されているようです。渡航先のウエストナイルウイルス感染病の流行情報を把握しておくことは重要です。渡航先で、蚊に刺されない方策を講ずることが必要なことは言うまでもありません。また、流行地域では、野鳥などの鳥類と馬がウエストナイルウイルスに感染している危険性の高いことも留意しておく必要があります。ウエストナイルウイルス感染病流行地域においては、蚊との接触を防ぐ方策をとることが何より必要です。
また、日本のように、ウエストナイルウイルス感染病の発生していない国では、疑われる患者が見つかった場合、できるだけ早くウイルス検査を実施して診断することが、ウイルス感染の拡大を最小限に抑えることになります。地域に生息している蚊や野鳥の感染の有無の把握、特に死亡カラスのウイルス感染状況の把握は、その地域におけるウイルス侵入の有無を解明することにつながります。
- keyword
- ウエストナイル
- ウエストナイルウイルス
- 脳炎
- 感染病
- 感染症
知られていない感染病の脅威の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方