2019/10/04
危機管理の神髄
システムを壊す災害がある
われわれが“災害”と呼ぶパラレルな宇宙をさらに綿密に観察することから始めよう。
“災害”の正式な定義は、世界保健機関によれば、“比較的短時間に発生する、広範な人間の、物質の、経済の、環境上の損失と影響を含む共同体もしくは社会の機能の深刻な中断”である。災害の別の重要な側面は、その影響が、“被災した共同体が効果的に対応することのできる能力を超える”ことである。
しかしその影響が被災共同体の能力を超過する災害は、飛行機の墜落事故から人間の死滅まであらゆる形と規模でやって来るので、それらを分類するのは周知のとおり難しい。ここでの議論のためには、ホームルールとマリア級という2つの災害分類を定義することにしよう。
ホームルール災害とは、被災共同体の能力を超える影響を及ぼすが、州と自治体を合わせた、効果的に対応できる能力のうちにおさまるものである。マリア級の災害とは、州と自治体の対応能力を合算したものを上回る影響を及ぼす災害である。
―バラク・オバマ、2016年8月23日
オバマ大統領とFEMAの理事との間の“ブロマンス”はベルトウェイ(ワシントンDCのニックネーム)の最悪の秘密の一つである(“クレイグ・フゲイトが本当に好き”)。2016年8月、ルイジアナで豪雨が洪水を引き起こして数千という住宅と商業施設に浸水被害を及ぼしたとき、FEMAは速やかに現場に到着して食料・水・医療品を届け、探索・救助作業を行った。
今や、ルイジアナでの活動についてFEMAと話をするときは、“4277-ルイジアナ大嵐洪水”と題されたその事故に関するDR(災害対応:Disaster Responseの記録)を参照する必要がある。DR-4277は過去数年間にわたってなされたFEMAの活動の成功例である。他には2017年のハリケーン・ハービーとイルマの対応、2016年のテキサスの洪水とハリケーン・マシュー、2012年のハリケーン・サンディ、2011年のジョプリン竜巻がある。
DR-4277はFEMAが大災害と呼ぶものである。大災害は議会によって”ハリケーン・竜巻・嵐・高波・風波・潮波・津波・地震・火山の爆発・地滑り・泥滑・雪嵐・干ばつを含むあらゆる自然の出来事、原因のいかんを問わない火災・洪水・爆発であって、その損害の強度は州と自治体の能力を合わせても対応できないものであると大統領が信じる災害“と定義されている。2017年の最初の10カ月間に、トランプ大統領は約125件の大災害宣言に署名した。2016年までの10年間に、米国では1200回以上の大災害があった。
定義は同じであるが、マリア級の災害とFEMAの大災害は全く異なるものである。真のマリア級の災害とFEMAの大災害との違いが、システムを破壊する災害を理解するための鍵である。
というのは同様にひどい損害ではあったが、2016年8月のルイジアナの洪水はルイジアナ州とその自治体政府の合算能力を超えるものではなかったからである。それにもかかわらずFEMAは知事からの申請を承認して、2016年8月14日大統領は大災害の宣言を発した。
同じことがハリケーン・ハービー、ハリケーン・イルマ、テキサス洪水、ハリケーン・マシュー、ハリケーン・サンディ、ジョプリン竜巻のときにあった。どの災害も損害は似たり寄ったり、ひどいものであったが、被災した州の能力を超えるものは一つもなかった。
この小さな細部の違いにもかかわらず、全てが大統領によって大災害であると宣言された。これはときどき起こることである。実際、2016年までの10年間に、大統領によって大災害と宣言された1200回以上の災害のうち、州と自治体の合算能力を超えるものは皆無であった。
多くの人にとってはこれが論点となるだろう。州の災害対応においては連邦の援助、すなわちFEMAが州に届ける食料・水・氷などの支援が重要であったという。これには反論しにくいが、知事にあなたの州政府はどうしようもなく圧倒されていたのかと問えば、「それはない」というだけでなく「そんなことはあり得ない」と答えるだろう。州政府が正直なら、大統領の宣言を欲した理由はただ一つ、援助金だと言うだろう。
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