2019/11/01
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
広域避難にならなかった背景
江戸川区のハザードマップは以前の記事でも紹介したように、水害が想定される時、「ここにいてはダメです」の攻めてるタイトルで話題になりました。
■避難の合言葉は「ここにいてはダメ」と「551」?
https://www.risktaisaku.com/articles/-/17742
江戸川区で水害が起こった場合、3階まで水没することが想定されています。それだけではなく、2週間水が引かず、大勢の取り残された人を救助することもままなりません。もし直前になって一斉に人々が移動しはじめると、交通機関は混雑します。そのため、72時間前の3日前から江東5区での共同検討が開始され、広域避難勧告が検討されることになっています。
今回の台風19号は大きな被害が心配されていましたが、江戸川区をはじめ江東5区では広域避難勧告は出していません。広域避難勧告を出す基準としては、ハザードマップや避難情報についての江戸川区のQ&Aを見ていただくと下記のように書かれています。
A 台風や、台風が来る前の先行雨量、上流での集中豪雨が関係します。東京 に接近中の台風の中心気圧が930hPa(ヘクトパスカル)以下の場合や、荒川流域での3日間の 積算雨量が400mm以上と予測される場合などが基準となります。
https://www.city.edogawa.tokyo.jp/documents/519/hinanjyouhou.pdf
今回の台風は、直前までは中心気圧が915hPaでしたが、台風3日前から東京都に上陸する際の中心気圧955hPaと想定されていたので広域避難勧告の基準には達していませんでした。しかし、後から分かった荒川の三峰山頂雨量観測所での総雨量は595ミリでした。「3日間の積算雨量の400ミリ」の基準を結果としては、超えていましたので、広域避難勧告が出されてもおかしくなかった状況であった事が分かります。

実は、荒川の総雨量が400ミリを超える可能性があることは台風当日、12日7時過ぎに分かったのです。しかし、この時点では、人口に対して、交通手段が確保できないので、広域避難勧告を出すことが行政としては難しい段階になっています。
また、結果として、荒川上流での総雨量は多かったものの、江戸川区で想定のような被害がでなかったのは、様々な分析があり、ここでは詳しく書きませんが、例えば、12日夕方の豪雨の雨雲は福島県や長野県に向かっており、23区では激しい雨が降り続いていたわけでなかった偶然もありました。
さらに、当初心配されていた暴風ではなく、結果として雨の被害が大きい台風でしたので、高潮が発生しませんでした(満潮の時間16時31分と東京都の最大瞬間風速の時間21時14分の時間も異なっていました)。
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方