突然同僚が卒倒したら・・(※画像はイメージです)

ある日のランチタイム、賑わう社員食堂で男性が卒倒した。

「どうしたんだ?!」そこに午前の会議を終えた中澤(仮名46才男性管理職)がやってきた。同僚の話によると、さっきまで普通に談笑しながら食事をとっていたのだが、急に「息が苦しい、気分が悪い…」と言い出して倒れてしまったとのことだ。

「一体何が起こったんだ!」中澤が倒れている傷病者を観察すると、顔面と作業服からのぞく首の皮膚が真っ赤になって腫れており、呼吸は荒く、弱々しいかすれた声で「苦しい…」とつぶやく…。

「こ…これは…!アナフィラキシーじゃないか!?」

中澤は、すぐさま救急車の手配を部下に指示し、ABCDE(F)アプローチを開始した。。。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2016年9月25日号(Vol.57)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです(2017年3月23日)。



アナフィラキシーは死ぬかもしれない病気です(冒頭からショッキングな文章で失礼します)。急激に発症する重症のアレルギー反応であり、食べもの(卵、そば、魚介類etc.)やクスリ(抗生物質etc.)、虫刺され(ハチの毒etc.)により引き起こされます。病院に行ったら必ず問診で聞かれますね…「クスリや食べもののアレルギーはありますか?」このように、もともとわかっているアレルギー歴がある人のみならず、今までにアレルギーを起こしたことがない人にでも突然起こることがあるので厄介です。

これらのアレルギーを起こす原因物質を「アレルゲン」と言いますが、アナフィラキシーはアレルゲンに暴露して数分以内に始まり、見る見るうちに悪化して心停止、死に至ることもあります(コワイです…)。分単位もしくは秒単位での対応が必要であり、こうなると救急車を呼んでも間に合わないかもしれません。目の前にいるあなたが判断し、可能な限り対処することも必要になるでしょう。では、アナフィラキシーかどうかはどうやって判断したらよいのでしょうか?

まずは疑ってかかりましょう!

アナフィラキシーの症状はアレルゲン暴露後数分以内(〜1時間以内)に始まります。最も多いのは皮膚症状(じんま疹、皮膚の腫れ)でアナフィラキシー患者の80〜90%に見られます。

これらの症状はすべてアレルギー反応の結果として起こるものですが、喉が腫れて窒息したり(Aの異常)、呼吸困難に陥ったり(Bの異常)、血圧が下がったり(Cの異常)と、どれをとってもすぐさま生命に直結する重篤な状態が同時に起こりうるわけです。このアナフィラキシーがいかに緊急事態でありコワイ病態かがおわかり頂けると思います。

これらをまとめてS+(プラス)ABCDと覚えると良いでしょう。この場合の「D」はお腹の症状の下痢(英語でdiarrhea)にひっかけています。

アナフィラキシーへの現場での対応

残念ながら、アナフィラキシーに対して一般の方々が現場でできることはごく限られています。アナフィラキシーは、分単位、秒単位で進行し悪化します。一刻も早く119番通報を優先させてください。救急車が来るまでにできるとすれば、アレルゲンの暴露を減らすこと(食品やクスリを直ちに中止する、ハチなどから遠ざける、ハチの針が皮膚に残っていたらすぐに取り去る!など)を可能な限り行い、救急隊に引き継ぐまでは厳重な経過観察を継続します。傷病者を横に寝かせ衣服を緩め、嘔吐があれば横向きにして回復体位(本誌48号96ページ参照)を取らせます。

アドレナリン注射

アナフィラキシーに対する唯一の薬はアドレナリンです。もし、既知のアレルギーでアドレナリン自動注射器(エピペン®)を処方されていたら、迷わず使用します。緊急事態ですから吸収されやすいようにできるだけ大きな筋肉、血流の豊富な筋肉に打ちます(大腿四頭筋外側:ふとももの外側が推奨されています)。

衣服の上からでも構いません。あれ?おかしい?と思ったらすぐさま使用します。重症化してからではその効果を十分に発揮できません。間に合わないこともあります。アドレナリンの効果を最大限に得るためには最初の数分以内に注射を打つことが必要です。そのためには普段からどこへ行くにも必ず携帯しましょう。「常に持ち歩いているけど、就業中はカバンのままロッカーの中に…」というのでは意味がありません。トイレの中まで持って行ってください。当然ながら持っているだけでは宝の持ち腐れですので、使い方を熟知し、頭の中で定期的にシミュレーションをやっておきましょう。そして、普段からそばにいる人たち(家族、同僚etc.)と話し合っておき、アナフィラキシーが起こった場合にどうするかを前もって決めておくことが重要です。

エピペンは、服の上からでも使用できます。針が飛び出して薬が注入されます。

※アドレナリン自動注射器(エピペン®)を 処方される時には、必ず講習を受けること になっています。

アナフィラキシーのぶり返し!

アナフィラキシーを起こせば、必ず病院に行き医師の診察を受けます(くどいようですが致死的な病気です)。また、特徴としてアナフィラキシーは二相性の反応(一旦治まったあとの2回目の発作を繰り返す)があります。ゆえに救急の現場では治療に成功して一旦よくなっても、経過観察のために概ね一泊二日の入院をしていただくことが多いのです。

(了)