外傷による出血に対してできること
救急のABC、戦時のABC
救急科専門医

鶴和 幹浩
株式会社 指導医.com代表取締役 ERはEmergency Room(救急室)であり、Educational Resouces(教育資源)であるをモットーに救急医療の啓もう、ERでの教育・義務改善のお手伝いをします。医師(救急科専門医)。公衆衛生学修士。ICLS日本救急医学会認定指導者養成ワークショップディレクター。JATECインストラクタートレーナー。予備自衛官(陸上自衛隊衛生隊三等陸佐)。
2017/03/08
従業員の命を守る「職場の医学」
救急科専門医
鶴和 幹浩
株式会社 指導医.com代表取締役 ERはEmergency Room(救急室)であり、Educational Resouces(教育資源)であるをモットーに救急医療の啓もう、ERでの教育・義務改善のお手伝いをします。医師(救急科専門医)。公衆衛生学修士。ICLS日本救急医学会認定指導者養成ワークショップディレクター。JATECインストラクタートレーナー。予備自衛官(陸上自衛隊衛生隊三等陸佐)。
バングラデシュ・ダッカで日本人がテロの犠牲になってしまいました。JICA(国際協力機構)のコンサルタントとして現地の発展のために尽力されていた方々とのことです。同じく同機構の医療チームの末席に身を置く者として、お亡くなりになられた方々に哀悼の意を表します。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2016年7月25日号(Vol.56)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです(2017年3月8日)。
テロや戦闘での死亡原因の多くは失血死です。テロに巻き込まれないに越したことはないのですが、不運にも爆発や銃撃戦に巻き込まれてしまい、負傷してしまったら…そんなことがないことを祈るばかりですが…どうしますか?
救急のABC、戦時のABC
われわれ救急医が通常、病院で行う救急医療では、常にABC(Airway, Breathing, Circulation)を意識して、①気道 → ② 呼吸 → ③ 循環と優先順位をつけて治療を行うようにしています(本誌2015 年3 月号p.95 ABCDE(F)アプローチ参照)が、軍隊や戦時の医学を専門とする戦傷学の専門家によれば、まず大量出血を優先させて対処することが重要だそうです。
戦傷学の専門家から伺った話では、戦時のABC は、Away from danger, Bleeding(stop), Carry out だそうで、「安全なところまで離れて、止血して、(病院へ)搬送する…」といったところでしょうか。米国のTCCC(Tactical Combat Casualty Care)でも軍隊の行進や行軍という意味の単語「march:マーチ」の頭文字にかけて治療の優先順位を示しているようで、ここでも出血への早期対応が非常に強調されています。
目に見える出血はまず圧迫!(直接圧迫止血法)
読者の皆さんが戦地に赴くわけではありませんから大出血ならすぐに救急車を呼ぶことに異論はありません。しかし、そこで救急隊や応援が来るまでに何もしなければ傷病者はどんどん血液を失い、危険な状態へと陥ります。今ここにいるメンバーで現場から始められる救命・治療を開始しましょう。
まずは慌てずに圧迫して止血です。血液に触れないように手袋(ゴムやビニール製)をしますが、なければビニール袋なども代用できます。きれいなガーゼやハンカチなどを用いて出血している場所の真上をピンポイントで強く押さえます。これを直接圧迫止血法といいます(本誌2015 年7 月号p.108「 キズの応急処置」参照)。血が止まったかどうか?気になって圧迫を緩めてキズ口を観察するとなかなか血は止まりませんので、応援が来るまでは押さえたままでじっと我慢です。
ここで、圧迫しても止血が不十分な場合の原因は2つでしたね。
①圧迫が弱い?
②押さえる場所がずれている?
再度、出血しているポイントを見極めて強く圧迫しなおしましょう。
最も有効で誰でも簡単に行える止血法は出血している部位を直接圧迫するこの方法です。まずはこれをマスターしてください。これでも止血が得られない場合に以下の方法を用いますが、やや専門的な知識と技術が必要になります。
間接圧迫止血法
キズよりも心臓に近い太い動脈を圧迫して血液の流れを減らすことで止血効果を期待するという方法です。例として左示指先端のキズから出血している場合の間接圧迫止血法を示します。これは指の動脈が両側面を走行しているので指を両側からつまむように圧迫することで止血しています。もちろん直接圧迫止血を行いながらこの方法を付け加えると認識してください。
緊縛止血法
さらに高度で専門的になりますが、特に四肢の出血や切断に対して根元(心臓に近い側)を縛って止血するという方法があります。もちろん直接圧迫止血を行いながらこの方法を付け加えると認識してください。
しかし、この方法を安易に行うと、神経や血管を傷つけたり、余計に出血が増えることもあります。こう言われてしまうと緊急時の実施に対して気後れしてしまうでしょうが、生死を分ける場面では試してみる価値はあります。応援を呼びつつできることを現場から開始しましょう。
(了)
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