2016/12/05
リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒント
アントニオ・カルロス・ジョビン国際空港からリオデジャネイロ市内へと向かう幹線道路沿いにファベーラと呼ばれる貧民街が広がる。リオデジャネイロには数多くのファベーラが存在し、市の人口630万人に対し、ファベーラに住む住民は4分の1を超えるとも言われている。
リオデジャネイロの治安の悪さは、オリンピック開催前から、各メディアで取り上げられてきた。人口10万人当たりの殺人発生件数は日本の25倍、強盗発生件数は660倍にのぼる(2015年比較※在リオデジャネイロ日本国総領事館発表)。ファベーラでは、重火器で武装した麻薬密売組織間の抗争や、治安当局との銃撃戦がしばしば起き、一般市街地でも路上強盗、すり、ひったくりなどの犯罪が多発し、観光地や幹線道路などでは「アハスタウン(地引き網)」と呼ばれる集団強盗事件も多数発生している。
実際、8月5日から21日までのオリンピック期間中と、9月7日~18日のパラリンピック期間中に、邦人被害だけでも33件の事件が報告された。例えば、競技観戦のためマラカナン地区を訪れた邦人2が、競技場付近の路上で拳銃を持つ2人組に脅され、スマートフォン、財布などを強取されたり、地下鉄マラカナン駅前においては、知人と待ち合わせをしていた邦人2が2人組に脅され、それぞれカバン(携帯電話,旅券など在中)を強取される事件などが発生した。
テロについては、ブラジルは歴史的に国内で大きなテロ事件が起きたことはないが、開催直前には、過激派組織ISIL(自称:イスラム国)の宣伝およびテロ犯罪行為の準備に関与したとして、ブラジル国籍者10人が連邦警察により拘束されている。さらには、蚊を媒体とするデング熱やジカウイルス感染症の流行、交通渋滞、財政難や財政難を起因とする大会への反対デモなど、オリンピックに立ちはだかる障壁は低くはなかった。
それでも、結果からすれば、リオデジャネイロ五輪は、多くの感動を生み、成功裏に幕を閉じた。
五輪で想定したリスク
ブラジル大統領府が大会直前の2016 年7月に発行した概況報告書によると、オリンピックを迎えるにあたり、政府が想定していたリスクには、①テロや破壊行為、②反対デモなどによる暴動、③暴行などの都市犯罪、④都市内の移動システム(交通)、⑤公衆衛生、⑥主要サービスの中断、⑦サイバー攻撃、⑧自然現象、⑨事故や災害、が挙げられている。
これらのリスクを、「公安」「市民防衛」「諜報(情報)」の3つの観点から、国際オリンピック委員会(IOC)と、大会運営にあたったリオ2016オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、そしてOPAと呼ばれる連邦・州・自治体担当者らでつくるコンソーシアムらが対話をしながら、対策を進めていった。
「公安」と「市民防衛」についは、連邦警察、連邦ハイウェイ警察、州警察、さらに消防機関や地方自治体らが連携して対応にあたった。選手やVIPの安全確保、交通安全と交通規制、会場警備、事故や災害からの市民防衛、海上・空港・国境の警備、サイバー犯罪、テロ攻撃など幅広い活動を含む。
「諜報活動」については、ブラジル情報庁(ABIN)が責任を担い、インターポール(国際刑事警察機構)を通じて各国の情報機関や国内の関係機関と調整しながら、テロなどの危険情報の取集などにあった。連邦政府で中心となったのは法務省と国防省だった。
(了)
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