2016/12/13
リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒント
テロと同様に大きなリスクとして懸念されていたのがサイバー攻撃だ。世界中がインターネットでつながっている今、社会インフラがどれだけ脆弱であろうとサイバー攻撃の手が緩められるようなことはない。国際的ハッカー集団「アノニマス」の脅威も増す中、大会運営にあたったリオ2016組織委員会では、テクノロジー局が中心となりサイバー攻撃への対策に取り組んできた。
大会のITネットワークをサポートしたATOS社のホームページには「リオ五輪は、ボランティアのポータルサイトや選手や大会関係者の登録などの主要なアプリケーションに初めて本格的にクラウドが用いられた」と紹介されている。リオ五輪は歴史的に見てもITに力が入れられた大会だった。

それでも、大会に影響を与える事故は起きなかった。外部から何の攻撃も受けなかったわけではない。テクノロジー局ディレクターのエリー・レゼンデ氏は「オリンピック・パラリンピックの開催期間中には、セキュリティアラートにより4000万もの脅威が発見され、2300万のアタックを受けたがブロックし、事故をゼロに抑えた」と説明する。
サイバー攻撃の対策にあたったARBORNETWROK社(米マサチューセッツ)によれば、「オリンピックの開会前からオリンピックの公式Webサイトや関連組織が毎秒540Gbpsに達する高度かつ大規模なDDoS攻撃を受け、オリンピックが始まると攻撃が激化し、500Gbpsに達するDDoS攻撃が、これまで経験したことのない長期間にわたって続いた」とも報告されている(一般的なDDoS攻撃は数ギガ~100Gbps程度の不正トラフィックを発生させると言われている)。
こうした大規模な攻撃を防ぐことができた背景には、4年間の準備期間の中で、合計125回にも及ぶ演習を行うなど、徹底した対策があった。
サイバー・ウォー・ゲーム
大会までの準備期間に行われた演習のうち、特に規模が大きかったのがサイバー・ウォー・ゲームとテクニカル・リハーサルと呼ばれるものだ。
サイバー・ウォー・ゲームは、実際に動いているシステムを使って、組織がどのように現実的なサイバー攻撃に対応できるかを検証する目的で行われた。ハード面だけでなく、対応のプロセスや手順(攻撃の識別や、防御、対応、回復の方法の検討・決定など)についても評価されたとする。
レゼンデ氏によれば、ゲームは、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)と呼ばれるサイバーセキュリティ対応チームが中心となり実施された。既存のシステムに攻撃を加える赤色のハッカーチームと、その攻撃からシステムやプロセスを守る青色のチーム、さらに、攻撃への対応方法などを評価する緑色の計3チームに分かれて行われた。
赤チームのメンバーは20人。リオ2016組織委員会のパートナー企業であるITセキュリティ会社にもメンバーに入ってもらい、実際にさまざまな攻撃が試された。これに対し青チームは40人のメンバーがシフト体制を組み防御にあたった。緑チームは3人。どこで何が起きているか、どれだけ大きなダメージが与えられたか、全体への影響がどうなっているかなどを評価した。
ゲームは準備期間中に合計3回行われた。「初回のゲームはアドミンと呼ばれる管理系のネットワークを対象に行い、2回目と3回目は大会競技に使うネットワークも対象に含めて実施した」(レゼンデ氏)。
テクニカル・リハーサル
一方、テクニカル・リハーサルは、より現実的に大会運営を想定した中で、オペレーションへの影響も含めて対応手順などを検証することを目的に実施された。
テクノロジー局システム・ジェネラル・マネジャーのマルセロ・ソウザ氏は「ウォー・ゲームと、リハーサルのシナリオを比べると、リハーサルの方が人やプロセスとの関わりが強く、ウォー・ゲームは、どちらかと言えばテクノロジーとの結びつきが強い」と両者の違いを説く。テクニカル・リハーサルには、テクノロジー局のスタッフほぼすべてと、大会のオペレーションに関わるいくつかの部門も参加し、合計2回実施された。

リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒントの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/10/21
-
「防災といえば応用地質」。リスクを可視化し災害に強い社会に貢献
地盤調査最大手の応用地質は、創業以来のミッションに位置付けてきた自然災害の軽減に向けてビジネス領域を拡大。保有するデータと専門知見にデジタル技術を組み合わせ、災害リスクを可視化して防災・BCPのあらゆる領域・フェーズをサポートします。天野洋文社長に今後の事業戦略を聞きました。
2025/10/20
-
-
-
走行データの活用で社用車をより安全に効率よく
スマートドライブは、自動車のセンサーやカメラのデータを収集・分析するオープンなプラットフォームを提供。移動の効率と安全の向上に資するサービスとして導入実績を伸ばしています。目指すのは移動の「負」がなくなる社会。代表取締役の北川烈氏に、事業概要と今後の展開を聞きました。
2025/10/14
-
-
-
-
トヨタ流「災害対応の要諦」いつ、どこに、どのくらいの量を届ける―原単位の考え方が災害時に求められる
被災地での初動支援や現場での調整、そして事業継続――。トヨタ自動車シニアフェローの朝倉正司氏は、1995年の阪神・淡路大震災から、2007年の新潟県中越沖地震、2011年のタイ洪水、2016年熊本地震、2024年能登半島地震など、国内外の数々の災害現場において、その復旧活動を牽引してきた。常に心掛けてきたのはどのようなことか、課題になったことは何か、来る大規模な災害にどう備えればいいのか、朝倉氏に聞いた。
2025/10/13
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方