2016/12/18
リオ五輪から学ぶ 日本の危機管理を高めるヒント
特集 1 特別寄稿
2020年東京大会に向け
ということで、次は東京です。2020年の東京オリンピックは、警備上の多めの見積りとしては1000万人近い来場客となり得ると想定しています。ライブサイトなどを入れれば2000万人にもなり得ます。選手、観客に対応するための大会関係者の総数は20~30万人、提供される食事総数は1400万食、また、競技会場・非競技会場は合計で100を優に超え、それら会場施設にアクセスする車両をスクリーニングする作業は7万5000回にもなり得る、などの推計データもあります。「オリンピックは、平時における世界最大のイベント」と言われてきています。東京もそうなることでしょう。
それを踏まえて、現時点での警備体制の推計は、5万850人体制です。そのうち、警察、消防、海上保安庁を除いた民間の警備員が約1万4000人、ボランティアが約9000人。東京2020組織委員会が直接運用するのは、これら合わせて2万3000人ということになっております。
リスクベースで備える
リオデジャネイロ大会の視察を終えて、今後に向けた課題もいくつか出てきたと思っています。ここでは、最も重要だと思われる2点に絞ってご紹介します。
1点目は、「リスクベースの警備体制構築」ということです。「リスクベース」は、「リソースベース」の対語です。どのぐらいお金を使うかという判断が先にあるのが「リソースベース」です。オリンピックは世界中のテロリストなどの標的です。予算のことを無視するわけではありませんが、「リスク度」を評価し、それに見合った警備体制は何か、ということをベースに警備体制を構築すべきだ、ということです。言い換えれば、「必要ないことはやらないが必要なことはやる」ということです。当たり前のことを言っているだけのようですが、東京2020大会という巨大イベントを前に、その前提となるリスクを多面的に評価する作業というのは、容易なことではありません。過去の大会で現実に起こったものだけでなく、それ以外にもさまざまなイマジネーションが必要です。既に述べたとおり、過去の大会では、いずれも、数々のリスクをシミュレーションして準備していました。
2点目は、民間警備員体制の計画的構築ということです。リオデジャネイロでも、4年前のロンドンでも、予定数の警備員を結果的に集められず、土壇場になって慌てる一幕がありました。東京大会で同じ失敗を繰り返すわけにいきません。競技の追加もあり、1万4000人という推計が大きく下方修正されるとは思えません。早め早めに動いていくことでこの課題を解決し、日本の民間警備業界全体が大きな経験値を得る、つまりレガシーを獲得する、という結果に終わらなければなりません。
求められるオールジャパン体制
東京2020大会という巨大行事のセキュリティは、運営に当たる組織委員会の力だけでなし得るものではありません。「オールジャパン」の精神で、「オールジャパン」の体制で、ということをいつも申しております。国、東京都、組織委員会の強固なつながり、そしてスポンサー企業をはじめとする産業界の力、それに加えて、地域社会や国民一人ひとりの力が必要になります。
競技と都民生活との共存の問題は、特に自転車やマラソンなどのロード競技などでは大きなものとなると思います。また、大会施設建設に際してのセキュリティ要件の問題、医療体制の問題、サイバーセキュリティ向上のための関係機関間での協力体制強化など、今後さまざまな課題をクリアしていかなければなりません。
東京2020組織委員会は、オリンピック・パラリンピックの熱気と感動を守るために全力を尽くします。この場を借りて、改めて関係各方面の皆様のお力添えのほどをお願い申し上げたいと思います。
(了)
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