2019/12/13
危機管理の神髄
― スタンレー・マクリスタル将軍、チーム・オブ・チームズ
タスクフォースはチームの力を身に付けることで、急速に変化していくパラレルな宇宙の内部の環境に迅速に適応することが可能となった。ナジャフとバクダッドの市街地で、複数チームがトップからの命令を待つのではなく、共同して行動し、解決策を考え出し、即座に行動した。
タスクフォースは、日々の作戦と情報(O&I)の状況報告を中心に行動するようになった。このO&I報告は全員参加ビデオ会議で、戦闘地域の詳細な現状報告から始まり、続いて作戦目的の要点、支障となる事項、解決策の見つからない課題について自由討議がなされた。
もし、これが不思議にも慣れ親しんだことのように感じられたら、多くの典型的なビジネス会議の進め方だからだ。しかし、それ以上のものだった。OEMの当直チームの召集のように、O&I報告はタスクフォースを結束させる接着剤であった。それが戦いのリズムをセットし、全ての作戦行動範囲の情報を全タスクフォースのメンバー、関係省庁に発信し、同時に彼らの見方やアイデアを提供することも許した 。
グレートマシンはチーム・オブ・チームズ
以前の『ブラックスワン』のように、「チーム・オブ・チームズ」は全国の緊急事態対応機関で必読書となった。ニューヨーク市の災害専門家は、災害地域のパラレルな宇宙と戦闘地域のパラレルな宇宙の類似性に驚いている。ニューヨーク市では、クライシスがAOIであり、その敵はわれわれを打ち負かそうとしている。マクリスタル将軍と同じように、われわれの兵器の中で最大かつ最強の兵器はグレートマシンであることに気付いた。
イラクの統合特殊作戦タスクフォースのように、われわれのグレートマシンはチーム・オブ・チームズである。それは、迅速に、均一に、柔軟に仕事の一つのプロセスを進めるために、透明性のあるコミュニケーションと分散化された意思決定とも結びついて、人と装備が一体となって構成されている。
災害の様々な局面―捜索と救助、被害評価、退避、シェルター避難、兵站、がれき撤去、被災者支援、遺体処置、食糧 等々ーに取り組む数十のチームが必要となる災害もある。
どのチームも自分たちの食事と世話をすることができるが、何日も何週も続く大規模な対応活動のために、グレートマシンの仕事は、彼らが手に入れられないものは何でも手に入れることである。チームにリーダーが必要なら任命する。彼らが解決できない問題を解き、克服できない障害を取り除く。彼らが仕事に必要な物―たとえば、特殊作業車両や装備を業界の専門家から手に入れる。彼らが得られない情報、命令、承認があれば、彼らのために取り付ける。計画にない新しい問題に対しては、もっと人を投入して新しいチームをいくつか新編成する。
グレートマシンは信頼を創る。計画への信頼とわれわれは失敗しないという自信である。それは待たない。先読みして手を打つ。それは集団のダイナミックスを創造する。問題から逃げずに、問題に向かっていく力を与える。OEMに召集されると、イラクのO&I報告書のように彼らに考えることを強要する。今、何が起こっているのか、われわれは何をしているのか、 われわれは何をしようとしているのか、先取りするために今われわれは何ができるのか。
最後に、グレートマシンは全ての人に何が起こっているのかを伝える:現場チームから省庁本部へ、市庁舎へ、さらにパラレルな宇宙に囚われた子供たちや家族へと。それは、彼らにパラレルな宇宙の中の生活はどのようなものかを伝える、それをどのようにしているのか、また、われわれはまだ何をしていないのか、それはどうしてかを。
政府は、本来的に災害に対応する何らかの力を持っていると人々は考える。これはまるで見当違いである 。政府はゆっくりとしか動けない習性をもった組織で、パラレルな宇宙からの要求に答えるには不向きである。グレートマシンは秘密のソースで、政府が主導する災害対応をスーパーチャージする即座の官僚部隊なのだ。
クライシス・リーダーの神話
クライシスにおけるリーダーについて、OEMがもう一つの考えを持ったのも、タスクフォースが伝統的な知恵に関わったのもほぼ同じ時時期であった。
イラクでは、マクリスタルは、現代戦争の戦闘の複雑性と規模は、一人の人間が理解し命令する能力を常に超えていると知っていた。
彼の新しいアプローチは、クライシス・リーダーの伝統的な概念を改めることを要求した。いわゆる指揮命令(マイクロマネジメントとも知られるが)を行使するのではなく、マクリスタルのリーダーたちの仕事は、部隊を再結集して、彼らが明確に理解し遂行することができるようにすることであった。
チェス名人のように組織の一つ一つの動きをコントロールしようとする誘惑は、命令するよりもできる力を与える菜園主のやり方に道を譲らなければならない。
災害の期間中に、グレートマシンは全ての活動レベルに対する明確な目的をリストアップして伝えた。
OEMでは、われわれはこのような目的リストを司令官の意図と呼んだ。組織のあらゆるレベルの誰でもが司令官の意図の範囲内に入っている限り、どのようなことに対してもイエスという権限を与えられていた。
このメッセージは、「行う権利があることをやるのではなく、正しいことを行え」ということである。
(続く)
翻訳:岡部紳一
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300
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