2016/12/08
昆正和の『これなら作れる! 緊急行動の成否を分けるERP策定講座』
■だれが守るのか?
次は、こうした守るべき人々を「だれが守るのか?」について考えてみましょう。一見するとこの問いは、私たちにとって少しプレッシャーであることは間違いありません。今現在自分の身一つすらうまく守れるかどうか自信がないのに、人を守るだなんて…という義務感や責任感を感じ、当惑してしまうからでしょう。まあ、少し気を楽にお持ちください。次のように階層的に見れば、なるほどと納得できるに違いありません。
一つ目は、火災や自然災害などの発災現場では、まずあなた自身が自分の身を全力で守りぬかなければならないということ。これは理論でも理屈でも精神論でもない。生き延びるための本能です。周囲に危険や避難を呼びかける(意外とできないのですよこれが)、負傷者がいたら直ちに手を貸す。これも自身の身が無事であってこそできることです。
次は、緊急時の特定の役割を担っている人々。例えば初期消火班や救護班、避難誘導係などが該当します。こうした人たちは定期的な訓練への参加は必須ですが、会社によっては「ヒマなら参加してね」的な風潮が無きにしも非ず。役割を任されているなら、万一の事態が起こったらどう動き、どう人々を守ればよいか、ちょっとした仕事の合間にイメージトレーニングしておくこともお忘れなく。
三つ目は、緊急対策本部のメンバーに指名された人たちです。いわゆる会社の上層部や中間管理層の人々を指しますが、意外と自分の立場を自覚していない方が少なくありません。肝心の中核メンバーが音信不通、あるいはパニックで右往左往した挙句に指示命令がはちゃめちゃ…。こんなことになってしまったら、従業員やお客様を守ったり、重要業務を継続したりどころの話ではありません。
■どのように守るのか?
「どのように守るのか?」。ここでは会社として用意しておくべき次の4つの項目についてお話ししたいと思います。
まずは「避難誘導手順」。一般的には避難計画と呼ばれているもの。これらの要件を満たしているか点検してみましょう。
次が「安否確認手順」。「うちの会社は自動安否確認サービスを契約しているから何の心配もいらんのよ」とドヤ顔のあなた、サービス自体が機能することと、緊急時に全従業員から漏れなく安否報告が入るかどうかとはまったく別問題ですよ。この点をお間違いなく!
三番目は「非常時備蓄の規定」。予算やスペースの問題、メンテナンス(消費期限毎の買い替えなど)の問題がネックとなって、依然として準備が進まない会社は少なくありません。何も全従業員×3日分を完備する必要はないのです。1日、2日分、それも遠距離通勤者を見積もった人数分だけでよいではありませんか。これらが「少しでもある」のと「まったくない」のとでは心のゆとりの度合いが違ってきます。備えあれば憂いなしとはまさにこのことです。
「帰宅困難者対応手順」。都会でも地方でも、大規模な災害では必ず帰宅困難者が発生します。この手順は前掲の「非常時備蓄」と対になっています。いま外は危険だから帰宅してはいけないと従業員を引き止めたまではよかったが、食べ物も毛布もなくて一晩みじめな一夜を明かしたら、みなさん戦意喪失してしまうでしょう。
これらは、災害個別のERPと連携させるツールとして、いつでも使えるようにしておくことが肝要です。私たちは、どんな危機がいつどんな形で、どのくらいの規模で起こるのか前もって知ることはできません。何が起こっても確実に自分の命を守り、速やかにベクトルを合わせて緊急行動に移れるようにしなければ、そのあとに続く活動も場当たり的なものになってしまいます。ERPは、まさに予期せぬ事態が起こったときに、その状況に応じた「切り札」を提示するためのプランと言えるでしょう。
(了)
昆正和の『これなら作れる! 緊急行動の成否を分けるERP策定講座』の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方