次の巨大災害を予測
過去の発生履歴から危険性を探る

地震の長期予測が本格的に始まったのは阪神淡路大震災以降だ。平成7年7月、地震に関する調査研究の成 果が国民や防災を担当する機関に十分に伝達され活用される体制になっていないという課題意識のもとに、 総理府に地震調査研究推進本部が設置され(現・文部科学省) 、国を挙げて将来発生する地震を評価していくことになった。

地震の長期予測は、活断層や海底の地殻変動など の観測データに基づいて過去の地震発生履歴や発生 間隔を評価する形で行われている。ただし、東日本大震災後は、プレートの力がいかに変化しているか にも注目が集まっており、歪の分析により地震が発 生しやすい場所を評価するなど、中期的な予測も含 むようになってきたと言える。  

地震調査研究推進本部の地震調査委員会が 17 年3月に公表した「全国を概観した地震動予測地図」は、どこで、どのくらいの確率で、どのくらいの規模(揺れ)の地震が発生する可能性があるのかを、 主要活断層と海溝型地震に分け、初めて明らかにした。  

地震調査委員会では、その後も引き続き地震動予測地図の高度化に向け、予測手法や地下構造モデルなどの改良の検討を実施し、平成 21 年7月に全国 地震動予測地図を作成。22 年5月には 2010 年版に 更新した。同地図は、現在、東日本大震災を受けて、 見直しが進められており、今後順次、更新されてい く。  

長期予測では、平成 17 年当初から、三陸沖から 房総沖にかけての地震として、宮城沖地震が今後 30 年以内に発生する確率が全国で最も高くなっていた。東日本大震災の震源域は、岩手県沖から茨城 県沖まで長さ約 400 キロメートル以上、幅約 200 キ ロメートルで、地震調査委員会で評価してきた三陸 沖南部海溝寄り、三陸沖北部から房総沖の海溝寄り の一部も含んでいる。その意味では、規模こそ大き く異なったが、この地域で地震が起きるということ はある意味、当たっていたともいえる。  

ただ、地震調査推進研究本部では、超巨大地震の 可能性を十分に検討していなかったことや、過去の 地震発生履歴や海底地殻変動などの調査観測データが不足していたなどの反省を踏まえ、長期評価手法 の改善をはかり、 新たな評価を進めている。今後は、 津波の長期予測も行うことも決めた。

■危険性高い活断層
地震調査推進研究本部が今年1月 11 日に公表した最新の長期評価では、全国に約 2000 本あるとされる活断層のうち主要 108 の活断層について発生確率を評価。確率が「高い」ものとして①「神縄・ 国府津−松田断層帯」や、②「糸魚川̶静岡構造線 断層帯」 、③「中央構造断層帯」 、④「境峠・神谷断 層帯」などを上位にあげている。これら上位4つの活断層は、いずれもマグニチュードが7以上、特に 糸魚川̶静岡構造線断層帯については8程度とされている。また、富士山の南西から富士河口に延び る⑤「富士河口断層帯」については、過去の活動時期について2つのケースが考えられ、30 年以内に、 マグニチュード8程度の地震が高ければ 18%の確率で、低くても最大 11%の確率で起きると評価されている。

■東日本大震災で発生確率が高まった


糸魚川、立川、双葉、三浦、阿寺の5断層


地震調査委員会では昨年9月、東日本大震災とそ れ以降の地殻変動データを用いて、全国の主要な活 断層帯への影響を、各断層面にかかる力の変化の度合いに基づき評価し、糸魚川−静岡構造線断層帯の牛伏寺断層を含む区間、立川断層帯(埼玉県南西部 ∼東京都多摩東部) 、双葉断層(宮城県南部∼福島 県北部)三浦半島断層群(神奈川県三浦半島周辺) 、 阿寺断層帯の萩原断層(岐阜県東部)の5断層について、地震発生確率が高くなっている可能性が高いとして公表した。  

東日本の太平洋沖には、南北にわたって日本海溝が伸びており、太平洋プレートが日本列島の下へ東 側から沈み込んでいる。東日本大震災までは、この 沈み込みによって日本列島を西へ押し付ける力が働 いていた。しかし、震災以降、日本列島が東へ移動しており、全国の活断層の断層面にかかる力が変化するといった影響を受けていることが考えられ、上記5断層については、地震後に断層面を押し付ける 力が小さくなり、断層面にかかる摩擦力が弱くなっており、地震前に比べ動きやすくなっている可能性 があることが判明したという。  
しかし、 文部科学省地震・防災研究課によれば「もともとひずみがどの程度たまっていたかも明らかで なく、東日本大震災により具体的にどの程度、確率が高くなったかは算出できない」としている。

■津波の危険伴う海溝型
東南海・南海、択捉に注意
一方、海溝型地震では、南海トラフにおける南海地震(M8.4 前後)について 10 年以内の発生確率が 20%程度、30 年以内が 60%程度、50 年以内が 90%程度となっている。東南海地震(8.1 前後)については、 10年以内が20%程度、30年以内が 70%程度、50年以内が 90%程度もしくはそれ以上と高くなっている。東海地震については、過去に震源域が単独で破壊された事例は知られていないため、長期予測 の概要には掲載されていない。  

また、三陸沖から房総沖にかけての地震では、昨年 11 月に地震の発生確率が見直されており、その結果、今後も「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」 では10年以内にマグニチュード9クラスの地震が起きる可能性が9%程度、30年以内の確率が 30%、 50年以内の確率が 40%程度あるとされている。  

このほか、千島海溝沿いでは択捉島沖をはじめ巨大地震が高い確率で発生することが予測されている。択捉島沖では、マグニチュード 8.1 前後の地震が起きる確率が10年以内 20%程度、30 年以内 60 ∼ 70%、50年以内が 90%程度。領土問題にもめている中で巨大地震が起きた場合にどう対応するかなどの課題もある。  

また、首都圏に影響を及ぼすことが懸念されてい る相模トラフ沿いの地震としては、南関東におけるM7程度の地震(6.7 ∼ 7.2 程度)が 10年以内に 30%、30年以内に70%程度、50年以内に 90%程度の確率で起きるとされている。