不十分な災害時の動物への対応

動物12億匹が犠牲となった、オーストラリアで2019年後半から続く森林火災。避難が遅く、火災から何とか逃れて生き延びたコアラに消防隊員がペットボトルの水を差し出して与えたり、やけどを負ったコアラなどの野生動物の応急手当や命の救助を行った様子は世界中に拡散され、大きな絶賛を浴びた。

日本では災害時における動物への対応について、災害対策基本法に基づく防災基本計画や動物の愛護および管理に関する法律が存在するものの、獣医師会と消防・警察・自衛隊などの相互連携・遠隔支援システムについては十分に整備されているとはいえない。

また、現行の獣医療を提供する体制の整備を図るための基本方針(平成22年8月、農林水産省:獣医事審議会計画部会にて新しい同指針について現在審議中)には、災害時における動物への医療に関する言及自体がない。

しかし近年の自然災害の増加に伴い、人道的にも動物愛護の精神からも災害で被災した動物の救命・救急・救助・救出・救護は喫緊の課題であることは、東日本大震災をはじめ、さまざまな自然災害で改めて明らかになった。また、放置された動物による人への咬傷(こうしょう)被害、人への感染症のリスクも存在する。

慰謝料が認められる裁判例も

ペットが死傷した場合、発生する損害の種類は物的な損害になるが、飼い主の大切な家族であるペットについては特別の主観的・精神的価値を有している。財産的損害の賠償を認めただけでは償い得ないほど甚大な精神的苦痛を被った場合には、例外的に慰謝料が認められるとする裁判例が多い。

例として、平成20年9月30日名古屋高裁判決では、ペットに関する慰謝料について、「飼い主との間の交流を通じて、家族の一員であるかのように、飼い主にとってかけがえのない存在になっている」「動物が不法行為により重い傷害を負ったことにより、死亡した場合に近い精神的苦痛を飼い主が受けたときには、飼い主のかかる精神的苦痛は、主観的な感情にとどまらず、社会通念上、合理的な一般人の被る精神的な損害であるということができ」る旨判示した。

その上で、第二腰椎圧迫骨折に伴う後肢麻痺の傷害を負った飼い犬について、飼い主との交流を通じて家族の一員であるかのようにかけがえのない存在になっていたと認定し、飼い犬の負傷の内容や程度、飼い主らの介護の内容程度などを考慮して、飼い主2人に対しそれぞれ20万円、合計40万円の慰謝料を認めている。

当該事案はペットが死亡していないが、高額な慰謝料を認めた特殊な事例ではあるが、判例として参考になる。

■判決情報
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/950/036950_hanrei.pdf
事件番号:平成20(ネ)483
事件名:損害賠償請求控訴事件
裁判所:名古屋高等裁判所 民事第4部
裁判年月日:平成20年9月30日
1 交通事故によりペットである犬が負傷した場合において,治療費,慰謝料等を損害として認めた事例
2 車に同乗させていた犬が交通事故により負傷した場合において,犬用シートベルトなど動物の体を固定するための装置を装着させるなどの措置を講じていなかったことを理由に過失相殺を認めた事例

 

このような状況のもと、災害現場での人命救助は優先しながらも、動物の救命措置については二次災害の危険があるため消防・警察・自衛隊(軍)による活動が大変有益であり、実際、米国では大きな成果を上げている。