救急医療に携わる消防隊員として住宅火災に対応する際、おそらくこれまでに体験したことのない状況に接することによって、われわれは一度にいろいろな判断を迫られることがあります。こういった状況で第一に考えるべき要素が二つあります。それは、風下など周囲への延焼や火災のリスクそのものです。

しかし、他にも考慮すべき多くの要素があります。家の中に人がいるかどうか? けがをしてはいないか? ありがたいことに、多くの場合、到着したときには、家に住んでいる人、つまり人間の居住者は、けがもなく安全に避難しています。

では、次のようなシナリオを考えてみましょう。住宅火災の現場に、あなたが最初の応急処置を行う人として到着したとします。消防隊は順調に消火活動を行っています。家の持ち主は無事に避難しており、救急医療を必要としていません。家族は消防指揮所のそばで心配そうに事態を見守っています。

突然、消防士がぐったりした犬と一緒に家の玄関から出てきました。消防士は、あなたを見て、こちらへまっすぐに向かってきます。

それと同時に、家の持ち主も急いで消防士に駆け寄ります。消防士があなたのところにたどり着くのと同時に、家の持ち主も消防士のもとにたどり着きます。消防士は、息はあるものの瀕死の状態の犬をあなたに手渡します。さあ、どうしたらよいでしょう?

犬や猫の顔やひげにやけどがないか、また、それと同時に皮膚に焼け付いた毛を注意深く点検する(写真提供:グレンエルマン)

米国動物虐待防止協会によると、米国では約7000~8000万匹の犬と7400〜9600万匹の猫がペットとして飼われているといわれています。これは、米国の家庭全体の約40%が犬または猫を飼っているということになります(注1)。これらのペットは、住宅火災の際に人と同じようにけがをしやすい状況に置かれています。

通常、EMS(救急隊員)は動物の手当ては行いません。また、上述のような状況における、緊急のペットのケアに関する一連の実施要綱もありません。しかし、米国の家で飼われる動物の数の多さと今日の建物火災の燃え広がるスピードを考えると、負傷したペットに現場で遭遇する可能性は現実問題となっています。