直下型地震の特徴も反映した熊本地震のリーガル・ニーズ

2016年4月、震度7を記録する大地震が連続して熊本を襲いました。熊本地震は、260名以上が亡くなり、全壊住戸は約8500棟、半壊は約3万5000棟に及んでいます。都市直下を襲った巨大地震の威力に戦慄します。

なかでも、地震や土砂災害で直接亡くなった方が50名であるのに対して、災害後に過酷な避難生活などが影響で亡くなった「災害関連死」が200名以上にも及んだことには、いっそう心を痛めます。

この原因のひとつには、東日本大震災における実績や教訓が、熊本地震の現場に引き継がれなったことがあります。たとえば、東日本大震災における避難所環境改善の実績が、災害救助制度に反映されなかったことで、自治体の備蓄や防災の知恵につながらなかったことは、残念でなりません。

岡本正「災害復興法学」(慶應義塾大学出版会)より再構成

図は、熊本地震発生から1年の間に、弁護士が実施した無料法律相談・情報提供支援活動の傾向をまとめたものです。相談件数は1万2000件を超えるものとなりました。

「不動産賃貸借(借家)」(第22回「賃貸借契約の紛争、災害ADRによる解決を」参照)、「工作物責任・相隣関係」(第23回「自宅の損壊で他者に被害、ADR活用も」参照)の相談が多いのは、大都市を巨大地震が襲ったために建物も多数損壊したという、今回の被災地特有の傾向を色濃く反映しています。

「住宅・車等ローン」の支払い困難に関する相談(第12回「破産ではない被災ローン減免制度」参照)や、罹災証明書(第2回「罹災証明書は生活再建への第一歩」参照)・被災者生活再建支援金(第15回「住まいの全壊等には被災者生活再建支援金を」参照)に関する相談類型である「公的支援・行政認定等」の相談が多いことは、東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた地域のリーガル・ニーズ(第32回「『支援制度があること』の周知自体が重要な支援」参照)と共通しています。

こうしてみると、大規模災害が発生すれば、そこで「被災者の生活再建の達成」という目的のために必要となった情報、すなわち生活再建制度の知識は、災害大国である日本に住む者にとって不可欠といえます。国民の共通の常識として「ちしきのソナエ」としなければならないのです。防災訓練のなかに、知識のソナエという準備も取り込んでいただきたいと思います。

本連載は、次回(第34回)で最終回となります。東日本大震災・原子力発電所事故が発生してから9年が経過しようとしていますが、いまなお「人間の復興」が道半ばの地域も残されています。そのなかで法制度の改善が繰り返されることで、復興がさらに加速することを願ってやみません。

【本連載書籍化のお知らせ】
本連載をまとめた書籍『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』(弘文堂)が3月6日に発売されることになりました。
https://www.koubundou.co.jp/book/b497876.html
同日以降、順次書店等でご購入いただけるようになります。「防災バックに1冊、備蓄する本」になるよう意識したハンディサイズの書籍です。ぜひ防災訓練や防災講座にお役立てください。