「復興」には、仕事や暮らしといった「人間の復興」が重要です

本連載「もしも大災害で社員が被災したら? 生活再建への『正しい』知識の備え」は「防災・減災を自分ごと」にしてほしいという願いからはじまりました。

大災害時の企業にとっては、いかに速やかに業務復旧し、経済活動を維持していくかが最大のミッションとなります。これを達成する手段として、現在では多くの企業が事業継続計画(BCP)や事業継続マネジメント(BCM)の取り組みを進めているところです。

企業は「人」でつくられています。そこで働く従業員あっての企業です。また企業は、顧客や利用者など、やはり「人」の利益や幸せのために存在しています。そうであれば、防災・減災を「自分ごと」にして、企業のリスクマネジメントやガバナンスに貢献する人材をつくるには、まずは「従業員個人やその家族」に着目した防災教育を実施していくことが必要ではないでしょうか。

家族の生活再建を、企業・組織の側もしっかりとケアできてこそ、その企業は災害や困難にあってもしなやかに再生する強靭性(レジリエンス)を持ち得るのです。そのレジリエンスの第一歩を助けるのが「生活再建への『正しい』知識の備え」にほかなりません。

国連で決議された2030年へ向けた「持続可能な開発目標」(SDGs)においても、災害や気候変動に対する「レジリエンス」という言葉が明記されています。企業や組織のひとりひとりやその家族、お客様や取引先といった「人」に着目した生活再建への正しい知識の備えの研修は、SDGsに根ざした研修としても位置付けることができるのです。

最後に、この連載のベースとなっている新たな学術分野「災害復興法学」の取り組みをご紹介させていただきます。「災害復興法学」とは、被災者が生活再建の達成を求める「リーガル・ニーズ」をもとに、新たな法制度や制度の改善が実現した「復興政策の軌跡」をまとめ、よりよい制度をつくりあげることを目的とする学問です。

大きく、次の4つの役割があります(NHK「視点・論点」2018年3月8日放送より)。

(1)法律相談の事例から、被災者のニーズを集め、傾向や課題を分析する
(2)既存の制度や法律の課題を見つけて、法改正などの政策提言を実施する
(3)将来の災害に備えて、新たな制度が生まれる過程を記録し、政策の手法を伝承する
(4)災害時に備えて「生活再建制度の知識」を習得するための防災教育を行う

災害後の被災者からの相談内容を分析すると、支援する法律はあるのに、被災者に知られていなかったり、利用しにくい点があったりして、十分な支援ができていないことがわかりました。

そうであれば、既存の法律や制度を改善することも必要です。被災者の声から新しい制度を生み出し、残された課題を伝えることを目指すのが『災害復興法学』の取り組みです。防災や復興分野においても「法律」「政策」が重要なファクターになるという点に興味を持っていただけたら本望です。

本連載も最終回となりました。これまでお読みいただいた皆様に心より感謝を申し上げます。至らない点や不足する点も多かったとは思いますが、皆様の支えで1年余りの連載をやり遂げることができました。ありがとうございます。

【書籍が発売になりました】

 

連載をベースにした書籍『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』(弘文堂)が発売開始になりました。希望を伝える全30話(2つのショートコラムあり)からできています。34回の本連載の知識がつまっています。見開きの目次をながめるだけでも様々な「希望」があることを知っていただけると思います。『防災用品として備蓄しておく本』です。ぜひお手に取っていただければ幸いです。
弘文堂:
https://www.koubundou.co.jp/book/b497876.html