<大事件の前に必ず小事件あり>~技師青山士の名言
パナマ運河や岩淵水門手がけた偉人

高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
2017/03/16
安心、それが最大の敵だ
高崎 哲郎
1948年、栃木県生まれ、NHK政治記者などを経て帝京大学教授(マスコミ論、時事英語)となる。この間、自然災害(水害・土石流・津波など)のノンフィクションや人物評伝等を刊行、著作数は30冊にのぼる。うち3冊が英訳された。東工大、東北大などの非常勤講師を務め、明治期以降の優れた土木技師の人生哲学を講義し、各地で講演を行う。現在は著述に専念。
「大事件の前には必ず小事件がある。小事件をいち早くキャッチすることが技術者の最大の任務である」「技術は人なり」「手抜き工事は国民への背信行為である」。
これらの言葉こそリスクマネジメントの原点ではなかろうか。技術者倫理の普遍の原理でもあろう。「大事件」が発生した時、戦前の内務省土木局(国土交通省の前身)技術官僚・青山士(あおやま・あきら)は、声を荒げて同僚や部下にこう言ったという。普段は見せない姿だった。
1927年6月、内務省土木局を震え上がらせる大事件が突発した。日本一の大河・信濃川に巨費を投じて建設された大河津(おおこうづ)分水(長さ9.1km)の大堰(おおぜき)が梅雨の激流に洗われて突然陥没し機能マヒに陥った。完成からわずか5年後の大惨事である。
荒川放水路(現荒川下流)開削工事の主任技師(現事務所長)だった青山は、一報を聞いて大河津分水の設計ミスや管理の手抜かりなどを厳しく批判し、上記のような発言をした。「小事件は救いを求める自然からのシグナルである」とも語ったという。内務省はその青山を新潟土木出張所長(現国交省北陸地方整備局局長、最高責任者)に、また若手のエース技師の宮本武之輔を現場の主任技師に投入して大堰の早期再建を誓った。
突貫工事は酷暑の夏も酷寒の冬も続けられ、4年後には完成にこぎつけた。青山が大堰のかたわらに建てた完成記念碑は彼の人生哲学を伝えるもので、日本語と万国共通語であるエスペラント語で刻まれた碑文である。私はこの著名な記念碑の前に立つたびに厳粛な感動に全身を打たれる。
表に「万象に天意を覚(さと)る者は幸なり」、裏に「人類の為 国の為」(原文カタカナ)と刻まれている。碑文にはクリスチャンである青山のマタイ福音書を連想させる人生哲学が表明されている。が、それ以上に「自然災害発生前に小事件をキャッチしてこそ技術者は人類に幸福をもたらす」との信念が宣誓されている、と考えたい。
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