2020/03/13
危機管理担当者が最低限知っておきたい気象の知識
災害記録の読み解き方
防災計画などから災害の記録が集まったとします。それらをただ見ているだけでは有効な情報は引き出せないため、次の3つのステップで読み解いていくことをお勧めします。
ステップ2:大規模な災害が発生したときの雨量を確認する
ステップ3:大きな災害に結びつきそうな大まかな目安を把握する
では、それぞれのステップを確認していきましょう。
ステップ1:まずは大きな災害に着目する
過去の災害記録を見比べ、災害規模の大きなものをいくつか選んでみてください。一般的に言って、道路冠水よりも床下浸水、床下浸水よりも床上浸水の方が損害(災害)の規模は大きくなるため、床上浸水の被害件数を基準として考えてみるのもいいと思います。
先ほどから取り上げている新宿区の防災計画の場合、平成元年から平成28年まで55件の災害が列挙されています。これらの中には住宅の床下浸水が1世帯程度のものから床下・床上浸水が100件を超えるようなものまで幅があります。浸水被害を受けた住宅の数に着目してみると、次の平成元年8月と平成5年8月の2つの例が大規模なものに該当します。

https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000234714.pdf
平成元年8月1日の場合(図の上部)、住宅の床上浸水が28世帯、床下浸水は104世帯発生しました。平成5年8月26日のケース(図の下部)では、床上浸水が79世帯、床下浸水が190世帯だったことが見て取れます。
ステップ2:大規模な災害が発生したときの雨量を確認する
規模の大きな災害を選んだら、そうした災害を引き起こした雨量に注目してみます。新宿区の大規模災害(先ほどの図3)を再度ご覧いただくと、それぞれの発生日の下に「総雨量」や「最大時間雨量」が書かれています。平成元年8月1日に発生した集中豪雨(図の上部)では、最大時間雨量は53ミリ、総雨量は212ミリ、平成5年8月26日の台風11号による被害(図の下部)では、最大時間雨量40ミリ、総雨量は231ミリとそれぞれ確認することができました。
(補足)雨量の記録が分からない場合の調べ方
災害記録の中に雨量の記載がない場合もあります。そうした際には最寄りのアメダスのデータから雨量を調べてみましょう。気象庁のホームページで「過去の気象データ検索」(http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php)を開き、アメダス地点や災害が発生した年月を指定した上で、「日ごとの値を表示」させてみてください。
下はそのようにして求めた例で、平成5年8月26-27日の台風11号(新宿区の例の2つ目と同じ)の際に「アメダス東京」で観測された雨量を調べた結果です。「降水量」をご覧いただくと、27日の日降水量が234.5ミリ、最大の時間雨量が65ミリであることが判明します。このように調べた雨量を代用していきます。

ステップ3:大きな災害に結びつきそうな大まかな目安を把握する
大規模な災害を選び、その事例の雨量について調べたら、大まかにみて何ミリ程度でそうした災害が発生しているのか考えてみます。新宿区の大規模な災害のケース2例ではいずれも総雨量が200ミリを超えていました。また、1時間雨量で50ミリ前後の土砂降りというのも両事例に共通しています。
これらのことから、規模の大きな災害が起こりかねないレベルとして、「総雨量200ミリかつ時間雨量50ミリ前後」という目安を導き出します。ただし、この目安はあくまで参考値です。その目安に達しない場合には災害が起こらないわけでも、逆に、その目安を超えれば災害が必ず起こると保証するものではありません。その点は注意してください。
危機管理担当者が最低限知っておきたい気象の知識の他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方